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東北大学法科大学院メールマガジン

第68号 11/30/2010

◇平成23(2011)年度東北大学法科大学院入学試験について

 平成23(2011)年度東北大学法科大学院入学試験の第2次選考試験が、去る11月20日(土)に、仙台入試会場(東北大学法学研究科)と東京入試会場(東京海洋大学)で実施されました。

 今後の日程は、以下のとおりです。

第2次選考合格者発表平成22年12月6日(月)
第3次選考試験平成22年12月12日(日)
最終合格者発表平成22年12月21日(火)
入学手続期間平成23年1月4日(火)、1月5日(水)

◇トピックス ―連続講演会その4

 去る7月14日(水)に片平キャンパス法学研究科第4講義室において、岩渕健彦弁護士をお迎えして開催された、第3回連続講演会「企業再生の手法」の概要をお送りします。

 ご講演では、企業再生の社会的意義や企業が苦境に陥る原因から、具体的な企業再生の手法まで詳しくお話いただきました。

企業再生の手法

岩渕 健彦 弁護士

<はじめに>
 弁護士の岩渕健彦です。本日はどうぞよろしくお願いします。今、佐藤裕一先生からお話があったように、私は企業再生を担当することが多い方だと思いますが、実は私が初めて企業再生に携わったのは、今から15〜16年前でして、そのときに、和議の整理委員という形でお世話になったのが佐藤裕一先生でした。

 本日のお話ですが、これから実務家になる皆さんにとっては、あまり技術的な話をするよりは、一般的な、企業が苦境に陥る原因や対策についての大まかな話の方が理解しやすいと思いましたので、その観点からレジュメを作成しました。ただレジュメに即した話を考えているわけではありませんので、ご了承頂ければと思います。

<企業再生の社会的意義>
 まず、企業再生の社会的意義についてですが、私はこう考えております。

 弁護士の役割は色々なものがあります。刑事弁護人の場合は、時には無罪を争い、時には情状を主張して、無実の人は無実となるように、そうでない場合にも必要以上に罪が重くならないように、努力をします。民事事件の場合、例えば、交通事故の被害者が依頼にくれば、被害者のために損害賠償を請求するという意味で、まさに困った人を助ける部分があります。そういった弱い人を助ける業務は弁護士の本来的な業務として、いわば分かりやすいと言ってもいいと思います。

 これに対して、企業再生というのは、弱い人(自然人)ではなく、企業を助けるというものですが、私自身は、これも弁護士の重要な活動の分野だと思っていますし、企業再生はある意味では人権を擁護する活動と言っても良いと思っています。その理由は、企業を助けるというのは、その法的な器を助けるわけではなく、その企業の中にいる人を助けることになるからです。例えば、わずか10人の企業を助ける場合でも、その10人の後ろにいる家族、奥さんや子供を考えたら、本当に何十人もの人を助けることになります。100〜200人の企業を助けるときには、数えきれない人を助けることになります。

 企業再生によって、まさにその企業に関わる人たちを助けられる、そして、その企業と取引をする人たちも助けられる、さらに、地域の経済を守ることにも繋がります。そういう意味では、これは本当に大事な活動で、もちろん弁護士が関与する前に助かれば一番いいのですが、弁護士の助けを得ないと再生できないような企業に関しては、我々が活動する必要性が高いと感じています。

 企業再生の案件のうち、民事再生の事件についていえば、まず依頼を受けたら、債権者説明会のために、銀行回り、つまり銀行に行って頭を下げて「しばらく様子を見てほしい」とお願いすることから始めます。その後債権者説明会、取引先の債権者、多ければ100〜200人くらい来ます。市民会館とか県民会館に集めて、時には怒鳴られることもありますが、それを押さえながら司会をして、あまり不平を言われないような形に説明をしていきます。その間にその他の手続きを進めていき、また、企業には事業を継続してもらい、最終的な集会において、再生計画案を提出して、認可を受けるという流れになります。

 そこまで終わって、うまくいった場合には、最後に、会社の経営者、従業員、幹部の方達が私の事務所に来て、喜びを分かち合うことになるのですが、そこまでやったときに、この仕事をしてよかったなあと思います。おそらく皆さんも将来、企業再生をやって自分の依頼者や企業を助けることができたときの喜びというのは結構忘れられないものだと思います。

<企業が苦境に陥る原因について>
 企業が苦境に陥る原因について、レジュメに簡単に書きました。(1)自然災害、(2)構造不況(特定の不況業種)、(3)不採算店舗の増加、(4)過剰投資等を原因とする有利子負債の増大、(5)販管費の増大の5つです。おそらく、この(1)〜(5)以外にもたくさん原因はあると思いますが、すぐに思いついたのはこの5つでした。

○自然災害等
 まず、自然災害についてですが、例えば、火事で工場が焼けてしまって大きなロスが生じた。そして新しい工場を作るために建築資金を借りてきて新しい建物を作った、そうすると、当然、金利も発生しますし、元本償還も始まりますので、企業の経営が苦しくなる、そんな例が典型例だと思います。

 自然災害とは異なりますが、似たような話では、最近私が担当した運送会社の案件で、原油の値上がりが原因というものがありました。皆さんご存じだと思いますが、昨年か一昨年くらいから原油の値段が上がり、新聞等のニュースになっていました。あのときは原油の値段が1.5倍以上にも上がってしまいました。トラックは軽油で動きますが、中小企業の場合、軽油のリッター当たりの単価が10〜12円上がると利益が吹っ飛ぶような世界です。それがリッター当たりの単価が50〜60円上がってしまったのです。それでダメージを受けて、その運送会社は資金繰りがつかなくなり、私のところに相談に来たという案件です。このケースは自然災害が原因ではありませんが、不可抗力という意味では自然災害の一類型と言ってもいいと思います。

 話が少し脱線しますが、このような動きに関連して、政治の動きというのも結構重要です。政治批判をするつもりはないのですが、以前、民主党が暫定税率の廃止を掲げていました。暫定税率が廃止されると軽油やガソリンの値段が下がりますので、暫定税率の廃止だけで運送会社は一気に黒字になります。私の担当した会社も、利益が年間で1千万円くらい増えるはずでした。また、高速道路の無料化の話もありましたが、高速料金のコストが全部浮くと、この会社は完全に生き返ると思い、手続きを進めたのですが、結局、暫定税率は廃止されないですし、高速道路は料金も変わりませんでした。これも自然災害とは違いますが、そういった問題が企業にダメージを作るということが結構あるように思います。この自然災害は結構克服が難しいというのが残念なところです。

○構造不況
 構造不況の典型例としては、建設、建築、土木の業界があります。過去には、青木建設や熊谷組といった大きな建設会社、ゼネコンが結構、民事再生の申立をしたり、金融支援を受けたりしています。現在は、建築、建設、土木系の会社は、特殊なところ以外、余程の大手か体質のいい企業でないと経営はなかなか難しい場合があると思います。

 こういった構造不況のこの業種の企業を救うためには、おそらく業種を変えるしかないと思います。以前、宮城県の中小の建設会社の会合によばれ、「建設業界が生き返るためにはどうしたらいいか」という題目で講演を頼まれたことがありました。どのように答えればよいか困りましたが、結論的には、「建設業で生き延びるためには、おそらく、規模を大きくすると共に、財務体質をよくして生きていくしかない」と一般論を述べた上で、「できれば他の業態や部門に進出した方がいい。ただし、一般に、専門の部分以外に手を出すというのはかなりリスクのあることなので、そのリスクを十分理解した上でやってほしい。」とお話をしたことがあります。

 最近、私は建設会社の民事再生を1件やっています。その案件では、会社本体の建設部門について大手のスポンサーがついてバックアップをしてくれる、つまりキャッシュを入れてくれることになりました。そうすると資金繰りも回りますし、大手のスポンサーがつくといい仕事が取れますので、なんとか回るのかなということがありました。それと、もう一つ、関連会社で農業生産法人を作っていました。建設会社の人は色々な機械を使いますから、農業や林業の分野にいくことが結構あります。その関連会社の方は、農業を中心にして生きていこうということになりました。

 従って、まず、本体の建設会社についてはスポンサー付きの民事再生を選択し、関連する農業生産法人については、本体の建築会社がダメになると銀行の見る目が厳しくなりますので、銀行に説明に行って頭を下げて、1〜2か月間銀行とずっと協議をして、農業生産法人についてはこれまでどおり取引をするので、生き残らせて欲しいとお願いをして、概ね了解するといった言質をもらうことができました。

○不採算店舗の増加
 不採算店舗の増加についてですが、やはり企業がダメになる原因の1つには、無謀な出店ということがあります。典型例は、皆さんはご存じだと思いますが、某大手スーパーの事件があります。確か出店した店舗のかなり多くがダメになっておかしくなってしまった。後は、別の某大手総合スーパーの事件があります。前者の大手スーパーの事件では確か産業再生機構が入って救済されたと思いますが、後者の大手総合スーパーの方は紆余曲折があったのですが、最終的には確か会社更生の方を選んだと思います。

 不採算店舗が増える理由ですが、銀行と取引をしていて状況が悪くなると、銀行の見る目が厳しくなります。返済圧力がかかるようになり、お金を返せという風に言われるようになるし、しかも資金も貸してもらえない。そうすると、十分な企業活動ができないということになります。企業としてはじり貧になってしまう。それで、店舗を増やすと一時的には売り上げが増えます。よく利益をみると十分な採算がなくても、店舗を増やすととりあえず売り上げが増えるので銀行の見る目が優しくなることがあります。

 また、店舗を増やすと拡大路線に見えるので、銀行が見る目も多少甘くなるようです。それで、おそらく先の某大手スーパーもどんどん店舗を作っていったのではないでしょうか。事業家としては、自分の店舗を大きくしたいという欲は誰でもあるようですし、新たな店舗を作ると、銀行からの借入ができることがあります。新しい店舗を作った場合、売り上げはすぐに入ってくるのですが、一般に仕入の返済は数ヶ月のサイトがありますので、店舗を作ると資金繰りが一時的には楽になったりします。これも、無駄な店舗を作っていく原因の1つのようです。

 不採算店舗が増えた場合の対応ですが、要するに潰せばいいということになります。しかし、意外と不採算店舗を潰すのは難しいです。経営者というのはなかなか自分の失敗を認めたがらないので、自分の作った店舗を閉じるのはなかなかできないようです。また、「先代の目の黒いうちは、先代が作った工場は潰せない」ということよくあるようです。そういったことで、潰せない店舗がずるずると増えていってしまうということになります。

 話が少し変わりますが、不採算店舗が増えすぎた場合の対処方法として、民事再生はかなり有効です。店舗を作る際の店舗の賃貸借契約中に、中途解約の禁止条項が入っている、あるいは、中途解約ができるという条項が入っていないことが意外に多いです。そうすると、例えば、あるA店という店舗について賃料が毎月100万円かかるとすると、営業をするだけで、仕入、販売等もやっていくことになりますし、人件費等もかかりますので、月額の100万円の賃料以外に、例えば200万円の損が出るということもあります。

 そのようなときには、本来やめればいいのですが、中途解約条項が入っていないと、やめても賃料がかかってしまいますので、やめられないのです。仮にやめたとして、営業による毎月のロスの200万円を防いで、空家賃として100万円の損失だけを覚悟するという判断になります。それでも、月100万円の賃料の負担は痛いのです。

 民事再生法を使うと、賃借人の方から無条件に契約を解除できるという条文がありますので、仮に当契約書上で契約を解除できないという条項になっているときでも、再生法をかければ片端から解除できますので、それによって店舗を減らして、負担を減らすことができます。

 話は少しずれますが、皆さんが企業再生をやらないとしても、企業法務をやるときの契約チェックのときには、賃貸借契約の中途解約条項だけは必ずチェックするように、習慣をつけた方がいいと思います。チェックしておかないと後で大きな問題になることが結構あります。

 それから、先程のケースで、もし民事再生法を使わずに損失を減らそうとするのであれば、転貸する方法があります。事業をやめて営業ロスを失くして、例えば100万円で借りた物件について、50〜60万円でも貸してしまう、そうすると、損失が毎月40〜50万円ですむことになります。損が出るにしても100万円よりもマシであるという選択をすることになります。

○過剰投資等を原因とする有利子負債の増大
 過剰投資等を原因とする有利子負債の増大については文言通りで、例えば、新しい店舗を作ったり、店舗の内装を変えたり等色々すると、当然債務が増えます。債務が増えると金利が増え、その金利がその経営を圧迫するといものです。

○販管費の増大
 販管費の増大ですが、決算書の中には貸借対照表(BS)があり企業の静的な財産状態を示しますが、もう1つ損益計算書(P/L)というものがあります。損益計算書を上からみていくと、「売上原価」があって、「売上総利益」があります。分かりやすくいうと、物を仕入れて売るその利益ですが、そのような費用以外の間接費用である「販売費・一般管理費(販管費)」があります。企業が節制をせずに事業を続けていると、人が余分に増え無駄な費用が出てきて、それが、販管費の増大に繋がっていくことになります。販管費の部分が増えた場合の対処としては、リストラ等により販管費を圧縮することになります。

 以上、5つの原因をそれぞれ説明してきましたが、これらはバラバラではありません。不採算店舗の増加は、逆にみると、増えた店舗分に関連する間接部門の増大があるわけです。例えば、店舗を50店舗から30店舗に減らしたら、単に30店舗にするだけではなくて、今度は30店舗を管理するのに相応しい体制とするために間接費用、販管費の圧縮にも手をつけることが大事です。

<企業再生の手法>
 次は企業再生の手法について説明していきますが、簡単に言うと、今お話したことと逆のことをするという話になります。レジュメには、(1)苦境に陥った原因の除去(体質改善)、(2)リスケジューリング、(3)サービサーが関与する形の企業再生、(4)第二会社方式、(5)会社分割を利用した企業再生、(6)法的再建手続を記載しました。

 (2)〜(6)までは手法ですが、どれをやるにしても(1)の体質改善が大前提になります。例えば、建設・建築業者の再生の場合、何にも手を加えずに再生法に基づく手続きをして、支払いを止めたとしても再生できません。仮に、今ある借金の9割をカットしてもらったとしても、来月また借金が増えればダメなので、まず体質を改善して、借金ばかり増えるのではなくて利益を上げる体質にすることが最優先になります。

○苦境に陥った原因の除去(体質改善)について
 体質改善の作業としては、今お話したように、不採算店舗が多いのであればその店舗の閉鎖をする。閉鎖の場合は先程述べたように、再生法を使うことが結構多いです。

 ただ、意識しておく必要があるのは、店舗の閉鎖は意外と難しいです。店舗を閉鎖するということは、そこの従業員を解雇することになります。従業員を解雇すると、一時的には、従業員の賃金以外に1月分の解雇予告手当や、退職金も出す必要があります。ですから、体質改善にも結構お金がかかりますので、企業再生するときには、体質改善をするためにどれくらいのお金がかかるか、そのお金を再生企画の中に織り込めるのかというのが重要な視点になります。

 ただ、逆に有利子負債、金利が原因となって企業の存続に悪影響があるという場合は、それは簡単で、再生法をかければ金利がカットされて0になりますから、基本的にはそれ自体で原因の改善に直結していることになります。

 先程の(2)〜(6)の流れは、普段私自身が依頼を受けたときに、倒産させずに再生すると考えるときの順番です。(2)リスケジューリングを考えて、(3)サービサーを関与させるかを考えて、(4)(5)第二会社方式を利用できるかどうかを考えて、どうしてもやむを得ないときに、(6)民事再生法や会社更生法を使うという選択肢でやっていますが、(6)の法的再建手続きを知らないと(2)〜(5)はわからないと思うので、まず簡単に法的再建手続についてお話します。

○民事再生手続について
・民事再生手続の流れ
 民事再生手続について概略のみお話します。まずある企業を助けようと思ったら、裁判所に事前面接に行きます。そこで、「○○という会社があって、債務総額が△△くらいです。今の状況はよくないですが、××というふうに直せばこの会社はおそらく資金繰りはよくなり、必ず再生します」と説明します。ここで大事なのは6か月間の期間です。裁判所は、再生手続にのせた後6か月以内に資金繰りがつかず潰れることが一番問題だと考えますので、「6か月間の資金繰りは大丈夫ですし、改善します。」というようなことをアピールすることになります。

 そして、事前面接の時期に、きちんと再生手続開始の申立書を書いておけば、後は審尋の後に、保全処分、例えば、手形の不渡りを回避するため等、再生手続申立の前の債務については支払うことはできないという意味の保全命令をもらい、公平な手続きが開始されます。その後、だいたい15日くらいで、特にその会社について再生手続を進めてはいけないという余程の強い意思が債権者から明示されたり、明らかに再生手続を行うことが債権者一般の利益に反するという事態が出てこない限り、再生手続の開始決定がされます。

 民事再生手続が開始されると債権者は債権の届出をします。それから、その届出がされた債権についての認否、再生債務者である依頼人と私とで、「この債権はある」、「この債権はない」という認否をしていきます。そして、最終的に、再生債務者の財産と再生債務の状況を確認した上で、再生計画案を提出します。

 再生計画案というのは、例えば、債務の9割をカットして、残り1割を10年で払うというものです。今までで一番カットしてもらったのは、債務を97%カットしてもらって、残りの3%について、毎年0.3%ずつ10年で払うというものでした。そのときに、ある債権者から「消費税にもならないような金額を10年で払われても困る」と怒られたことがありました。

・民事再生(再生計画案可決要件)(1)
 民事再生手続上の再生可決要件について、例を挙げて簡単に説明しておきます。

 レジュメに書いた図ですが、債権者は通常50〜100人いますが、わかりやすくするために3人としております。この例では、Aという債権者が債務者に対して1億円の債権、Bという債権者が5億円の債権、Cという債権者が2億円の債権を持っています。このケースにおいて、再生債務者が、例えば、債務の9割カットしてもらい、1割を10年で払いたいという提案をするとします。このときに、全員が賛成なら全く問題ありません。再生手続をする必要がなくなります。

 全員の賛成を得られずに、民事再生手続をした場合ですが、再生債務者の提案の可決要件は、簡単に言うと、議決権の基礎となる金額の2分の1以上と、人数の過半数です。このケースでは、BとCが賛成すると、人数でも過半数になりますし、金額でも7億なので2分の1以上となりますので、可決されます。BとAが賛成しても、金額が2分の1以上、人数の過半数も確保できますので、可決されます。しかし、AとCが賛成してもBが反対すると、人数は過半数となりますが、金額で2分の1に達しません。そうすると、この場合は否決されて破産手続に入ります。また、Bのみが賛成して、AとCが反対の場合は、金額では2分の1を越えますが、人数では過半数に達しないので、否決されて破産手続に移行します。

 実務を少しするとわかりますが、企業を再建できるか否かは、銀行の存在が大きいです。2〜3の銀行が債権の8〜9割を占めていることが多いので、銀行さえ賛成してくれれば、金額は2分の1以上に達することが多いのです。一方、人数の過半数要件については、一般債権者に賛成してもらう必要がありますが、一般債権者はそれ程反対しないことが多いので、銀行を説得できるかが問題となります。ですから、取引先すべてが「この企業は助けたい」と思っても、最後に銀行に反対されてしまうと金額の要件を満たさないので、否決ということになります。

・民事再生(再生計画案可決要件)(2)
 次の例は、不動産の担保がある場合です。先の例で、再生債務者に不動産があって、債権者Bがこの不動産に抵当権を設定しており、不動産に3億円の価値があると仮定します。この場合の、議決権の2分の1以上、人数の過半数要件というときの議決権の考え方ですが、簡単にいうと、債権額からその物件の価額を差し引き、担保割れしている債権の部分が対象の金額となります。ですから、この例ですと、Aは1億円、Cは2億円で、Bは5億円から3億円を差し引いて2億円という見方をします。その上で、金額と人数の要件をみます。

 先程と矛盾するかもしれませんが、銀行によっては、担保をガチガチに取ってしまっています。例えば、債権としては全体の9割を持っているが、その9割の債権が全部担保で保全されているということもないわけではありません。そのようなケースでは、銀行は担保権を持っていますが、議決権はないということになります。

 ただ、そのようなケースでも、その不動産がこの企業の再生に是非必要であるという場合もあります。そうなると、再生計画で可決要件をクリアしても、結局担保権を有する銀行に「再生案が通ったのはわかりました。でもうちは反対ですから、この不動産を競売にかけます」と競売にかけられてしまうと、例えば、その物件が工場であれば、企業再生に不可欠な工場がなくなってしまう、再生計画案は通っても別除権、担保権の実行によって、再生不能になってしまうことも稀にあります。

 そうならないようにするには、おおよそ3つあります。1つは別除権協定といって、担保権の評価額について金利をつけ10年間くらいで分割弁済をするという協定を結んで、担保権の実行を止めておくという手法です。他には、担保権消滅請求を使って担保権を消滅される手法、もう1つは、スポンサーにその不動産を購入してもらって担保権を消した上でスポンサーから借りる、多分この3つのパターンくらいだと思います。

・民事再生と会社更生の違い
 以上が民事再生の大まかな流れですが、ちなみに、民事再生と会社更生の一番の違いは何かわかりますか。一番の違いは、前の経営陣が残れるかどうかです。前の経営陣が残りやすいのが民事再生、前の経営陣が極めて残りにくいのが会社更生です。他に、担保権の拘束をしやすいのが会社更生で、担保権の拘束が原則できないのが民事再生という違いもあります。

・某大手総合スーパーのケース
 私が少し関わりそうになった案件が某大手総合スーパー(以下「総合スーパー」とする)の会社更生でした。当時その総合スーパーの本店は大阪でしたが、某大手都市銀行(以下「都市銀行」とする)が出資をしていて、都市銀行から社長を出していました。総合スーパーの中の都市銀行グループは、会社更生をするにあたり、当時の経営陣の責任をきちんととってもらい、新しく再生しようとしました。

 ところが、当時の総合スーパーの以前からいた取締役らは、民事再生をやろうとしました。当時、会社更生法を利用した再建を考えた社長は都市銀行がバックにつくという筋書きを作っていて、東京で倒産の分野では著名な法律事務所が動いていました。丁度そのとき、同時に動いていた総合スーパーのナンバー2以下は、アメリカの大型小売店と組もうとしており、東京の中堅クラスの事務所が動いていました。

 そのとき私は社長派側の法律事務所の依頼を受けていましたので、その総合スーパーの支店の前にいて、goサインが出たら店舗の中に入って一番偉い人を見つけて、会社更生手続きの開始に関して、説明をして、理解してもらう役目を持っていました。総合スーパーの支店は全国にたくさんありますから、各弁護士がそれぞれ現地に行って仕事をすることになっていました。そして、そのXデーのまさにその日に、総合スーパーの中で取締役会が急遽開催され、代表取締役の解任動議が出ました。そして、社長が解任され、別の取締役が社長に切り替り、会社更生の担当の弁護士を全部解任してしまいました。そこで、私も解任ということになり帰ることになりました。

 この後、我慢できないのは都市銀行です。経営陣がそのまま残り続ける融資の手続きをDIP(debtor in possession)ファイナンスといい、民事再生や会社更生等のつなぎ融資のことをよくDIPといいます。当時その都市銀行はDIPファイナンスにより、総合スーパーの救済をするという約束をしていましたが、まずこれを止めてしまいました。総合スーパーは、そこから1週間くらいで資金が続かなくなり、当初想定していた大規模小売業者なども助けてくれず、結局当時の副社長ら全経営陣が民事再生を諦めて、会社更生をすることになり、今現在に至っていると思います。会社更生と民事再生は経営権のとりあいの問題がありますので、結構ドラマがあります。

○リスケジューリング
 以上の民事再生や会社更生は、私は、最後の手段だと思っています。その手前の再生方法として一番大きいのはリスケジューリング、略称リスケです。例えば、今まで短期、例えば1年で返済していたものを、長期5〜10年に切り替えるといったことです。そうすると、金利負担は長く続きますが、元金の返済分は減るので、キャッシュフローが楽になります。「なんだ、そんなことか」と思われる方もいるかもしれませんが、意外と、リスケ自体を企業ができない場合もあります。

 企業再生に行うに当たり、弁護士が入るメリットとデメリットの両方あります。リスケについては、弁護士が入ることで効果的になる場合もありますが、私自身は、リスケの場合、そのアドバイスだけをして、あまり表には出ないようにしています。

 リスケジューリングの手法は簡単で、「今、この企業の資金繰りは○○です。今度事業について、△△に、例えば、店舗を減らします。減らす店舗をいくつ減らすために、縮小コストは××かかります。しかし、3ヶ月目以降は…と資金が動き始めます。そうすると、今から半年くらいは金利のみにして頂き、2年程度の均等分割であれば、きちんと払います」というような事業変更計画、事業計画を実行した場合の利益の計画と、返済の資金計画の3つを持って行くように指示すると、大体、銀行も稟議書を書くことができれば通してくれることが多いのです。弁護士の仕事としてはリスケの計画案を作成するのみで、それで通れば企業にとってはいいのではないかと思います。これで済むケースも結構あります。

○サービサーが関与する形の会社再生
 次にサービサーが関与する形の企業再生についてお話します。サービサーとは、不良債権を買い取る人たちのことです。小泉政権の時代、竹中大臣が、日本の銀行の不良債権の処理が重要だということで、サービサーが活動しやすい素地を作りました。結果として、私も、このサービサーに関与してもらって事件を解決したことがあります。

・サービサーが関与する形の会社再生
 まず、レジュメのモデルケースを見ていきます。この例で、銀行が債務者に1億円の債権を持っていて、この債務者の財産状況からしてその回収が困難であると銀行が判断したとします。この場合、銀行は、最終的に、この債権をサービサーに売ることがあります。そして、売るときには、額面が1億円でも、50万円で売るケースもあります。そうすると、サービサーの得た債権は、額面が1億円でも、仕入は50万円ということになります。

 サービサーは通常仕入れ値を教えてくれないですが、例えば、私からサービサーに、「どうせ不良債権として50万円くらいで買ったのではないですか?この債権を100万円で放棄してくれませんか?」というような話をして、9900万円分の債権放棄をしてもらうことがあります。このようなサービサーとの交渉は、企業再生の場面以外でもよく行われます。サービサーは、回収困難な債権を大量に買っていますので、話をすると結構放棄してくれることも多いです。

 話が少し逸れますが、銀行は4半期に1回くらい債権を売ることが多いように思います。そのときに、値段を付けて売る債権もありますが、不良債権を寄せ集めて一括にして債権全部を○○万円で売るということもあります。そのような債権をバルク債権といいます。バルク債権を買い取ったサービサーは、おそらく全部で○○円とかで買っていて、値段があってないようなものですので、かなり大雑把な交渉で債権放棄をしてもらうということもあります。ただ、企業再生に絡むような債権譲渡の場合ですと、やはり値段を付けて売ってもらうことが多いように思います。

・第二会社方式(債権放棄)
 次の例は、以上のサービサーが関与する企業再生の応用編で、私が現実に担当した案件の数字を変えたものです。この例では、銀行Aが債務者に対して22億円の債権を、銀行Bは8億円の債権を持っています。そして、債務者はビルを持っており、銀行Aが第1順位の抵当権、銀行Bが第2順位の抵当権を持っています。

 まず、このときに、債務者側に新会社を作って、そのビルを新会社に9億円で売りました。新会社は9億円を他の銀行Cから借りて、その9億円を新会社から債務者に払い、この9億円のうち約8億円を銀行Aに支払いました。そして、銀行Bには、銀行Bは第2抵当順位の銀行なので、このビルの価値を9億円とすると本来は価値が0円の担保権しか持ってないので、確か50万円くらいしか払わなかったと思います。それで、銀行Aと銀行Bの担保権も消してもらい、残りの約1億円はその後の色々な清算費用に使いました。銀行Cには、そのビルに9億円の抵当権を付けました。

 これによって、銀行AとBの持っている抵当権が消え、銀行Aの債権が約14億円、銀行Bの債権は約8億円のままとなります。これらの債権は俗語でいうポンカス債権となり、サービサーに売られます。担保付き債権の場合は、売る時に担保権も評価、要するに不動産鑑定士を呼んできて鑑定、評価することが多いのですが、ポンカス債権の場合はその企業が潰れかかっており、実質価値がないということが前提ですので、価値は0となります。このときは、銀行A、銀行Bのポンカス債権を、サービサーにそれぞれ100万円ずつくらいで買ってもらったと思います。

 そして、銀行Aの14億円、銀行Bの8億円の債権はサービサーに移ったのですが、銀行は社長個人の保証も当然取っていて、個人保証を消す必要があったので、サービサーに対して200万円くらい払って債権放棄してもらい、その会社を破産、解散(清算)しました。

 このような手続をする前は、30億円の債務、同じ額の抵当権があったのですが、今のスキームでの処理によって、最終的に新会社に移った資産は、債務が9億円、同じ額の抵当権ということになります。この債務者はテナント収入で営業していて、30億円の債務はとても払えなかったのですが、この新会社は資産に見合った債務になったので、テナント収入で十分返済ができるようになりました。これによって、銀行との円満な関係が今でも続いています。

 今私がお話したのは、第二会社方式(債権放棄)というもので、サービサーを利用した任意の事業再生ですが、このようなスキームを使えるかどうかは運もあって、できるケースもあればできないケースもあります。この件については、当時の小泉政権時代の銀行は不良債権を処理したいという強い思いを持っており、また、銀行は老舗を大事にするということがあったので、できたといえます。いつでもできる手法ではありません。そういう意味では、次の第二会社方式(民事再生+事業譲渡)の方が使いやすいかもしれません。

○第二会社方式(民事再生+事業譲渡)
 次の例は、民事再生+事業譲渡による第二会社方式というものです。まず、この例では、再生債務者に、銀行Aに5億円、銀行Bに2億円の債務があり、さらに、取引先に債務がたくさんある。銀行Bには再生債務者の土地について第1抵当権があり、土地の評価は約1億円というものです。

 再生債務者が事業を継続していて救いたいと思うが、元の再生債務者の債務が、例えば、何十億円もあって債務を払いながらでは事業を継続できない場合にどうするか。その手法の1つとして、まず再生手続きの申し立てをして、事業を継続しながら債務を確定していきますが、その途中で新会社を設立して、事業をその新会社に売ってしまうというものがあります。

 事業を新会社に売るときには、例えば、土地の目的物が含まれていて、その土地の評価額が1億円であれば、例えば、事業部分は2千万円と評価して、1億2千万円で売ります。そうすると、新会社は銀行Cから1億2千万円借りてくればいいわけです。新会社が1億2千万円借りて、新会社は再生債務者に1億2千万円を払い、再生債務者の方では、そのうちの1億円は抵当権を消滅させるため、銀行Bに1億円払って担保権の解除をしてもらい、銀行Cの抵当権をその土地に付けます。

 この新会社からみると、1億円の資産を手に入れた上で、1億2千万円を払っているので、資産を超過した部分の支払いは2千万円ということになります。つまり、この事業の対価は2千万円とみることになります。

 再生債務者には、銀行Bに1億円払った後は2千万円が残りますから、最後は普段やっているように、債務の9割をカットしてもらい、残り1割を10年で全部払うと、あるいは、2千万円を超えた部分を全部放棄してもらって2千万円だけ均等に払うという案を出します。再生案が通れば、再生計画に基づいて返済を行い、返済が済めばこの企業は存在意義がなくなるので、解散、清算して終わりということになります。

 この手法を、第二会社方式のうちの再生+事業譲渡方式といいますが、人によっては清算型民事再生という呼び方をする人もいます。この手法を使うと、しがらみのないきれいな企業ができるので、企業が将来も生きていくには、非常に有利な方法だと思っています。

 今のこの不況の時代、企業同士が凌ぎを削っている時代では、どんなに企業の体質を改善しても、過去の債務、今の事業の継続とは関係のない債務を負担して勝負するのは大変です。そういう意味では、この手法により過去の債務の殆どを消してしまい、新会社は若干の事業価値くらいの債務を負担するだけにしないと、新会社も長く続かないと思います。

 ですから、債務を10年かけて払うような再生案を作って10年間苦しむよりは、最近はこの手法により短期間で処理して、後はきれいに生きていくという方法を選ぶようにしています。ただ、この手法をする場合は、スポンサー(銀行C)がつかないとできないので、簡単ではないのですが、スポンサーがつけばこういう手法を取ることができます。

○会社分割を利用した企業再生(第二会社方式(会社分割))
 最後に、第二会社方式(会社分割)についてお話します。この第二会社方式(会社分割)はみたことはよくありますが、私自身でやったことはありません。非常に面白いスキームなので紹介のみします。

 この手法は、会社分割を使うものですが、例えば、ある会社の中に、事業のgood部門とbad部門があるようなときに、bad部門を元の会社に残して、good部門を新設会社に出すというものです。新設会社にgood部門の事業を出すと同時に、新設会社の株式は分割元の会社に対して発行されます。そうすると、新設会社は、good部門に関する債務だけ引き継ぎますから、good部門に見合った債務のみを負担していることになるので、生きていくことが容易になります。

 しかしこのままだと、新設会社の株式が分割元の会社の中にありますから、銀行や債権者がその株式について強制執行をしたい等、分割会社が潰れたときの株式の行方が不安定になるので、ここでは終えずこの株式をスポンサーに買ってもらいます。レジュメの図でいうと、スポンサーに株式を売却して、株式代金が分割元の会社に入ってきます。そうすると、分割元の会社は、事業のbad部門と、good部門の株式代金しか持たないことになりますが、それだけでは絶対に事業を継続することができないので、この段階でこの分割元の会社は破産又は解散します。解散した場合だと特別清算に移行することになります。そして、新設会社は、good部門のみを持って、スポンサーとともに生きていくというものです。

 このケースで、会社分割時に株式を発行して、新設会社にgood部門を出すときに、銀行は文句を言わないだろうかという問題意識を当然持つと思います。債権者からすれば、bad部門のみを有する分割元の会社に対する債権しかないというのは問題であるという意識を、皆さん持つと思います。

 このケースにおける分割前の会社の債権者である銀行Aと銀行Bに分けて考えていきます。まず、分割前の会社のbad部門に対する債権を持っていた銀行Aですが、会社分割で不利益を受けているかというと、厳密にいうと受けていないことになります。なぜなら、新設会社に出したgood部門の価値は、発行された株式と釣り合っているはずだからです。会社分割自体によっては、このgood部門の対価であるはずの株式が分割会社に入っているので、この銀行Aは会社分割について異議を述べられません。これは、法律でそうなっています。

 それから、分割前のgood部門の債権を持っていた銀行Bについてですが、会社分割によって新設会社の方に債権が行きますから、分割元の会社には請求できません。強制的に新設会社に債務が引き継がれるので、銀行Aに比べて銀行Bの方が有利ですが、今の法律上では、銀行Aではなく、銀行Bが会社分割について異議を述べることができることになっています。そして、その異議を封じる方法もあって、それは、新設会社に引き継がれる債務を、分割元の会社に連帯保証させてしまうのです。

 そうすると、まず銀行Aについては新設会社の株式が入っているので異議を述べられませんし、銀行Bについても、分割元の会社にも請求することができ、不利益はないので、異議を述べられないということになります。ですから、この会社分割に対して銀行は異議を述べることができないのです。これは、政府の委員会等でパネルディスカッションなどをすると、銀行の方達は、法の不備だということで、皆怒っています。この手法は、銀行の了解をとらずにやってしまうと、大変な不評を買ってしまうので、私はこの手法をする場合には予め銀行に了解をとった方がいいと思っています。

 ただ、最近聞くところによると、この手法は会社側にあまりにも有利すぎるので、法改正されるのではないかという議論が出てきています。ですから、今のようなこの法律が、このまま維持されるかはどうかわかりません。

 このスキームで、債権者である銀行の対抗方法として、新設会社の株式のスポンサーへの譲渡について、銀行が止める権利を有するか否かが最後のポイントになります。この場合は、おそらく詐害行為取消権が問題になると思いますが、ただ、その場合も、新設会社の事業はあのgood部門の事業と債務の両方を承継しているので、新設会社のバランスシート上、純資産方式でみると、ほぼ資産と債務が釣り合っているはずです。そうすると、スポンサーに株式を、それほど高くない価額で譲渡したとしても、詐害行為といいにくい、今のところ、セーフだと言われています(注:この部分については上記の株式譲渡を詐害行為として取り消しうるとする裁判例も出てきています)。

<企業再生のための知識>
 今日のお話の中で、政治の話を結構しましたが、皆さんが実務家になったら、常に政治と経済の状況は見ておいた方がいいと思います。例えば、この時期だからこそ銀行はサービサーを使って債権を片端から放棄してくれるのだということを知らないと、債務者を助けらることはできません。また、第二会社方式の場合も同じで、このような方式があること、現行の法律ではその手法を採用できるという知識も必要です。ですから、法律の知識と共に社会の動きや常識も勉強しておいた方がいいと思います。

 債務免除益にも関係しますが、企業再生の基礎的な勉強に関していうと、今お話した基礎的な勉強以外に、やはり会計と税務をよく勉強された方がいいと思います。少なくとも、損益計算書(P/L)、貸借対照表(BS)は気軽に見ることができるようになっておく必要があります。これは、検事になる方にも必要です。例えば、横領や贈収賄の事件を担当するときには、企業の帳簿を見る必要があります。また、同様に裁判官にも必要ですし、弁護士でも決算書を読めないとこれから活躍できる範囲が減ると思います。

<債務免除益について>
 最後に、税務のお話、債務免除益についてお話します。レジュメのケースでは、資産が6億円、負債が11億円あるとしています。あくまで単年度という前提、前年度までに債務免除益課税を潰せるだけの繰越欠損金等がないという前提でみてほしいのですが、この場合、5億円の債権放棄をしてもらうと、この企業は資産と負債が見合うことになります。

 しかし、この場合に、5億円の債権放棄を受けることが本当にいいかどうかというのは、とても難しいです。確かに、5億円の債権放棄を受けることができるのは有難いのですが、債権放棄を受けることはお金をもらうのと同じであると評価されます。そうすると、一定の条件が揃わないと、5億円の債権放棄をしてもらっても、約2億5千万円もの税金がかかってしまいます。

 債務超過の会社が、そんな高額の税金を払えるわけがないので、債権放棄を受けると、却って2億5千万の税金が新たに発生してしまいます。しかも、すぐに返済期限が来て、しかも税金の金利はたしか14.6%です。税金の金利が14.6%しかもその額が2億5千万円としたら、その企業はかなりのダメージを受けます。

 ですから、債権放棄もただ受ければいいというものではなく、債権放棄を受けるタイミング、受ける条件を整える必要があります。そういう意味でも、会計と税金の勉強が必要ですので、今の債務免除益課税を回避できる方法を聞いてピンとこないのであれば、是非勉強された方がいいと思います。

 もう少しお話すると、この5億円の債権放棄の場合の債務免除益課税を回避する方法もあります。1つは、民事再生を利用することです。民事再生手続開始決定後の債権放棄については、債務免除益がかかりにくくなります。ただし、これにも条件がありますので、将来実際に行うときは気を付けて下さい。

 もう1つは、DES(Debt Equity Swap)を利用する方法があると思います。これは債務を資本に振り替えるというものですので、債務免除益課税がないという文献を見ることがありますが、このあたりは私も良く分かりません。DESを利用すると、企業の資産と負債のバランスがとれるので、その企業の格付けが上がります。そうすると、銀行側もさらに追加融資をしやすくなり、もしその企業が上場企業であれば、格付けが上がり、企業の経営が好転する、将来DESによって得た株式もまた市場で売却して回収できるかもしれないというようなメリットも考えられます。大きな企業の場合には、DESという方法を使うことによって債務超過を解消するというケースもあります。

 また、DESと似たもので、DDS(Debt Debt Swap)というものもあります。これは、劣後債という、資本と同視されるような債務に振り替える方法です。本日私がお話した内容のほとんどは自分の経験ですが、今お話したDESとDDSについては、私もあまり詳しくありません。もし、本日の私の話やこの辺りに興味を持ちましたら、会計と税務、また、企業再生についても色々な書籍が出ていますから、是非みて頂ければと思います。

 以上で終わります。ご静聴ありがとうございました。(拍手)

質1:企業再生全体について、20〜30年後で大きく変わってしまうことはあるでしょうか?
答1:正直なところ20年〜30年後は私にはわかりません。せいぜい1〜2年後のことは多少わかりますが、遠い先のことはわからないというのは本心です。その前提でお話しますと、民事再生法は、和議法の一部を修正して使いやすくした法律で、成立してからもう10年近くたっていますが、米国の法律も似たようなスキームですし、今後もおそらくこのままで行くのかなと思っています。また、今後も企業のスクラップ&ビルドは続くだろうと思います。企業が躓くことは必ずありますから、そのときに、比喩的な表現をするとすれば、一旦ドックに入れて、少し猶予期間を得て、直すところを直して、市場に出すという作業は、多分残ると思います。
質2:税金とか会計の知識について、弁護士はどこまで持っている必要がありますか?
答2:「どこまで」といわれると答えるのは困難です。私が思うに、弁護士は、意外と会計や税務を知らない人が多いと思います。ですから、最近では、弁護士の世界でも、会計や税務を勉強しようという動きはあります。私は会計とか税務の話が好きですが、やはりそれを専門にしようとまでは思っていません。税務は常に通達によって動いている部分があって、一歩間違えると大きなリスクを伴います。ですから、仮に私自身がアドバイスする場合も、勉強をした上でアドバイスをしますが、最後は必ず税理士や公認会計士に相談してくれと言います。
質3:第二会社方式(会社分割)について、公的機関からの支援制度があると聞いたことがありますが、如何でしょうか?
答3:確かに中小企業再生支援協議会ではこの手法をかなり利用していると聞いておりますし、本日お話した例も、中小企業再生協議会で行われた例です。私もその支援委員をしています。確かこの制度は、専門委員である弁護士費用やデューデリジェンスのための費用を支援しているもので、この制度を有効に使えば再生をきっちりできると思います。ただし、制度を利用するに当たっては、一定のハードルもあり、すべての中小企業が利用できるわけではありません。
質4:第二会社方式(民事再生+事業譲渡)を行う場合と、事業譲渡した後に元の会社を解散させる場合とどのような違いがありますか?
答4:その使い分けについて、私自身に明確なルールがあるわけではありません。確かに、事業譲渡した後に元の会社を解散させる手法の方が手続的には楽な面がありますが、手続きの透明性はあまり高くないので、後に紛争の原因になる可能性もあるのかなと思っています。一方、民事再生を利用する場合は、手続きは大変になりますが、透明な手続の中で裁判所にも債権者にも監視されながら行われますので、透明性や適正性が手続上担保できます。ですから、私は、適正らしさを重視すべき事件については、再生法でやるようにしています。
質5:企業再生の場合、経営が立ち行かなくなってから弁護士に依頼が来ることが多いと思いますが、大手事務所の弁護士の書籍をみると、顧問契約を勧めていることが多いように思われます。しかし、再生が必要な企業はお金のない企業が多いと思うので、顧問契約を実際に結んで頂けるのか疑問ですが、如何でしょうか?
答5:私の場合、会社を再生にかけるために顧問契約を結ぶということはありません。私が顧問契約を結ぶとすれば、リーガルリスクについてアドバイスをするための顧問契約であり、企業再生のために普段から顧問契約をした方がいいという意識はありません。ただし、一般には、顧問料は月3〜5万円程度と思いますので、企業が成立していれば払えない額ではないと思います。

◆編集後記

 顔にあたる風も冷たくなり、朝夕の冷え込みも一層厳しくなってきました。平成22年もあと残り1ヶ月です。

 今回は、第3回連続講演会「企業再生の手法」の概要をお届けしました。
 講演概要の掲載にご快諾いただいた岩渕健彦先生に心から御礼申し上げます。

(杉江記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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