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東北大学法科大学院メールマガジン

第60号 05/31/2010

◇東北大学法科大学院入試説明会の開催のお知らせ

 東北大学法科大学院では、下記のとおり、入試説明会を開催します。
 東北大学法科大学院の受験を希望される方の他、法曹の仕事に関心のある方、法科大学院への進学を考えている方も是非ご参加下さい。

日時:2010年6月26日(土)13:00〜14:00
場所:片平キャンパス法学研究科第4講義室
 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/gaiyou/access.html

お問い合わせ・参加申込み方法:
 お問い合わせは、東北大学法学研究科専門職大学院係に電話(022-217-4945)又はメール(opencampus@law.tohoku.ac.jp)でお願いします。
 お申し込みは、東北大学法学研究科専門職大学院係宛てに電話(022-217-4945)又はメール(opencampus@law.tohoku.ac.jp)にて、住所・氏名・電話番号を明示の上、6月21日(月)までにご連絡をお願いします。
 なお、事前の申し込みがなくても参加可能ですので、気軽にお越し下さい。

◇東北大学法科大学院東京オープンキャンパス開催のお知らせ

 東北大学法科大学院では、下記のとおり、東京にてオープン・キャンパスを開催します。

日時:2010年7月3日(土) 10:30-13:00
※会場への入場に際してセキュリティー・チェックがありますので、10:00〜10:30までに3階セキュリティー・ゲートにお越しいただき,係の者より入館カードをお受け取りください。

会場:東北大学東京分室
  サピアタワー10階(東京駅八重洲北口より徒歩2分)
   〒100-0005
   東京都千代田区丸の内1丁目7番12号
   TEL 03-3218-9612  FAX 03-3218-9613
※会場への案内につきましては、以下のホームページをご覧下さい。
 http://www.bureau.tohoku.ac.jp/somu/bun/bun.html

プログラム:

  1. 特別講演「一渉外弁護士の歩み」
      関根攻弁護士(長島・大野・常松法律事務所顧問、東北大学法科大学院客員教授)
  2. 入試・カリキュラム等概要説明  東北大学法科大学院長 佐藤隆之教授
  3. 個別相談会

お問い合わせ・参加申込み方法:
 お問い合わせは、東北大学法学研究科専門職大学院係(022-217-4945)までお願いします。

 お申込みは、電話(022-217-4945)またはメール(opencampus@law.tohoku.ac.jp)にて住所・氏名・電話番号を明示の上、6月28日(月)までに御連絡をお願いします。
 なお、事前申込みがなくても参加可能ですが、会場の都合上、来場者多数の場合は、入場を制限またはお断りさせていただくことがございますので、ご了承ください。

※上記東京オープンキャンパスの他、2010年8月28日(土)に、東北大学片平キャンパス法科大学院エクステンション棟にてオープンキャンパスを開催する予定です。詳細は近日中、東北大学法科大学院ホームページおよびメールマガジンにて、お知らせいたします。

◇連続講演会のお知らせ

 東北大学法科大学院では、これから夏にかけて、本法科大学院の修了生・在学生・教職員を対象に連続講演会を企画しています。
 第1回は、本法科大学院の卒業生である押見和彦弁護士、佐瀬充洋さん(現司法修習生)をお迎えして、法科大学院での学び方についてお話頂くことになりました。
 皆様ぜひご来場下さい。

第1回 6月24日(木) 18:00〜19:30
「夢をかなえるために ―法科大学院でどう学ぶか―」(仮題)
講師 本学2008年卒業生 押見和彦弁護士
    本学2009年卒業生・新63期司法修習生 佐瀬充洋さん
場所 片平キャンパス法学研究科第4講義室
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/gaiyou/access.html

※連続講演会の第2回以降については、追ってご案内致します。

◇トピックス 特別講演会

 今回は、去る2009年12月3日(木)に、証券取引等監視委員会証券検査課の其田修一課長をお迎えして行われた講演会「証券取引等監視委員会の活動と市場参加者の役割」の概要をお送りします。

 其田課長には、証券取引等監視委員会の活動、市場参加者の役割の他、本委員会や証券市場における法曹の役割についても詳しくお話をいただきました。

証券取引等監視委員会の活動と市場参加者の役割

証券取引等監視委員会証券検査課 其田 修一課長

<はじめに>
 証券取引等監視委員会(以下「監視委」)の其田です。本日は、このような機会を頂きましてありがとうございます。当委員会は、多数の法曹関係者が活躍している組織であり、将来法曹を目指している皆さんを前にお話できることを大変有り難く思います。

<日本のSESCと米国のSEC>
 監視委は、英語でSecurities and Exchange Surveillance Commission(SESC)といいます。監視委は、米国のSECを手本として創設されましたが、米国のSECは正式にはSecurities and Exchange Commissionであり、日本の当委員会には、Surveillance(監視)の語が入っております。日本のSESCと米国のSECの大きな違いは、米国のSECには規則制定権がありますが、日本のSESCにはそれがないという点にあります。

<監視委の発足>
 証券取引等を監視する部署は元々大蔵省内にあったのですが、平成4年7月に、大蔵省の外局として監視委が設立されました。その背景には、当時発覚した証券業界における損失補填問題を機に、証券市場、証券業界に対する監視、監督のあり方の見直しの機運が高まったことがありました。

 委員会という形にしたのは、米国のSECにならったものです。委員会は、物事の最終決定権を有する合議制の機関です。現在の監視委には3人の委員がいます。委員長は検察出身の佐渡委員長で、監査法人出身の福田委員、証券業界出身の熊野委員の3名で委員会が構成されています。

 少し技術的なお話になりますが、監視委は、国家行政組織法上の8条委員会に該当します。委員会には国家行政組織法上2つのタイプがあり、いわゆる8条委員会と、3条委員会があります。3条委員会の典型例として公正取引委員会、国家公安委員会があり、8条委員会には証券取引等監視委員会や原子力安全委員会、その他いわゆる審議会が該当します。

 3条委員会と8条委員会の大きな違いは、3条委員会には規則制定権、ルール作りの権限がありますが、8条委員会にはそれがないということです。監視委は8条委員会ですので、規則を作るのは別の組織(金融庁)で、その規則が守られているかどうかをみるのが監視委の機能という整理になっています。

 当初は、大蔵省の外局として監視委ができたのですが、その後大蔵省は省庁再編の中で、財務省となりました。平成4年当時は金融行政の機能はまだ大蔵省に残っていましたが、その後時を経て、金融行政は金融庁に一元化されることとなりました。平成12年7月に、金融庁が金融証券行政を一元的に担当することとなったのに伴い、証券取引等監視委員会も金融庁の外局となりました。

 金融庁と監視委との関係ですが、監視委は金融庁の外局として位置付けられますが、制度上金融庁から独立して職権を行使するということになっています。独立して職権を行使するというのは、金融庁の指図は受けずに、委員会の判断で仕事をしていくということです。また、委員は自分の意に反して罷免されることはなく、身分保障がされています。このように、監視委は独立性の強い組織として存在しています。

<監視委の主要な権限>
 次に監視委の権限ですが、大きく言って、検察庁への告発、金融庁長官への勧告、金融庁長官等への建議の3つがあります。

 1番目の検察庁への告発についてですが、内部者取引(インサイダー取引)、相場操縦等の証券市場に大きな害悪をもたらす重大な罪の違反者を検察庁に告発するという強い権限です。

 次に、金融庁長官への勧告があります。インサイダー取引や相場操縦等は、金融商品取引法(以下「金商法」)上の犯罪であり、刑事罰の対象です。しかし、刑事事件として立件する場合には、証拠固めに時間を要します。公判維持のためには、非常に慎重かつ綿密に証拠固めをする必要があります。数カ月、場合によっては1年を要する事件もあります。一方で、悲しむべきことですが、インサイダー取引をはじめ、相場操縦や開示規制違反といった法令違反行為は跡を絶ちません。これを全て立件するというのは困難です。

 こうした状況に鑑み、平成17年に導入されたのが課徴金制度です。課徴金制度とは、法令違反行為に対して審判手続という裁判に似た手続きを経て、行政処分として、法令違反行為によって得た経済的利得を吐き出させるという制度です。課徴金制度は行政処分なので、同じインサイダー取引でも刑事裁判に比べれば立証の程度が少なくて済み、迅速な対応が可能という利点があります。

 課徴金賦課までのプロセスにおいて、監視委の仕事は法令違反行為についての調査を行い、金融庁に対し違反者に対する課徴金の納付命令を下すよう勧告を行うことです。

 金融庁は勧告を受けると、審判手続を開始します。審判官は、審判手続の中で関係者から意見を聴取し、事案についての決定案を作成します。この決定案に基づき、金融庁が課徴金の納付命令を下すということになります。実は課徴金については、違反者が事実関係を認め、課徴金の支払を応諾するというケースが続き、ずっと審判廷は開かれませんでした。しかしながら、最近審判廷が開催されるケースが出てきました。その一つは、家電販売店のビックカメラの役員に対して目論見書の虚偽記載により課徴金の処分を勧告した事件です。ちなみに本件では、法人たるビックカメラという会社に対しても、有価証券届出書等の虚偽記載により課徴金処分の勧告をしていますが、法人の方は課徴金納付に同意し、既に決着しています。これは、初めて審判廷が開催されるケースとして注目を集め、平成21年12月現在も審判手続きが進行中です。

 課徴金の他に、私が所属する証券検査課で行っている証券会社等の検査において、重大な法令違反等が認められた場合には、登録取消、業務停止命令、あるいは業務改善命令といった行政処分を行うよう金融庁長官へ勧告することとしています。

 3番目として、金融庁長官等への建議があります。先程申し上げましたように監視委には規則制定権がなく、ルールを作るのは金融庁です。しかし、日頃の検査・調査活動を行っていく中で、既存の金商法等のルールや制度の見直しが必要ではないかという認識を持つことがあります。そのようなときは、建議という形で金融庁に対し、現行のルール、制度にはこういう問題があるので、こういう見直しが必要ではないかという提案をしています。

 最近では、外国為替証拠金取引(FX取引)を個人の方がかなりやっていますが、これは少額の証拠金を払ってその何十倍もの金額の取引を行う大きなリスクが伴う取引です。従来は、取引金額は証拠金の何倍までという規制がなく、証拠金の100倍、200倍もの取引ができる状態だったのですが、これでは相場が裏目に出たときは、大きな損失を被ることになり、実際にも多くの個人がそういう経験をすることになりました。こうした状況を受け、監視委は取引金額に対する証拠金の比率について、実際の為替変動を勘案し適正な水準に設定するよう義務付ける等の措置をとるよう金融庁に建議を行いました。その結果取引金額の4%以上の証拠金の預託を義務付けるいわゆるレバレッジ比率規制が導入されることになりました。

<証券取引等監視委員会の組織>
 先程説明しましたように、監視委員会は3人の委員で構成されており、意思決定は委員の多数決により行います。委員は、衆議院と参議院の同意を得て内閣総理大臣の任命で就任することになります。監視委は金融庁に設置されていますが、委員は独立して職権を行使し、金融庁から指示を受けることはありません。また、意に反して罷免されることはないという身分保障も確保されています。任期は3年です。

 すべての仕事を3人の委員だけではできないので、事務を担当する人間が必要です。委員会の下には事務局があり、事務局のトップは事務局長、その下に総務課、市場分析審査課、証券検査課、課徴金・開示検査課、特別調査課の5つの課があります。このうち、市場分析審査課は先程の話には出て来なかったのですが、投資家、市場関係者等から入ってくる様々な情報を分析し、監視委においてどう処理していくかという方向付けをしている課です。例えば、インサイダー取引の場合は投資家や証券会社から、相場操縦は証券会社や取引所等から、情報が入ってきます。こういった情報はまず市場分析審査課に入り、その情報について分析・調査をして、その結果に応じ刑事立件を目的とする特別調査課、課徴金勧告を行う課徴金・開示検査課、証券会社の検査を行う証券検査課に振り分けられます。

 当委員会は東京の霞が関にありますが、そこには約380名の職員がいます。この他、財務省の地方部局である財務局にそれぞれ証券取引等監視官がいて、同じ仕事をしています。全国で10の財務局がありますがトータルで約300名の職員が従事しており、全体で700名弱の職員が監視業務に携わっていることになります。

 アメリカのSECには、約3500人の職員がいるそうです。ただし、SECには規則制定権があるので、ルールを作る仕事をしている人もいますし、証券市場の大きさをみてもアメリカは世界一大きいですから、これと監視委を比較して一概に多い少ないとは言えません。

 今までの説明でわかると思いますが、証券取引等監視委員会の仕事は、まさに法の執行(エンフォースメント)です。したがって、法律の専門家が求められる仕事が多くなります。現在、我々の事務局の中には法曹関係者の方が20人くらいいます。その中には、裁判所や検察から出向されている方がいますし、弁護士の方もたくさんいます。私の証券検査課にも弁護士の方が3人います。

 我々は、金商法を執行する部署ですが、金商法というのはあまり普通の方には関わりがないと思います。金商法は、読んでみるとわかりますが、すぐ頭が痛くなるような法律で、読みこなすのは至難の業です。そういう意味では、金商法の実践的な知識を身につけるには、監視委に来て仕事をするのが一番早いかもしれません。監視委は法曹の方が十分に活躍できるフィールドだと思います。

 その他のプロフェッショナルとして、公認会計士の方も10人以上在籍しています。例えば、有価証券報告書の虚偽記載の検査においては公認会計士のノウハウが欠かせません。不動産に投資する投資信託(リート)の運用をする会社も監視委の検査対象となっていますが、検査においては不動産鑑定士の方が活躍しています。

 また、コンピュータシステムの専門家もいます。現在、証券会社の中にはインターネット取引専門の業者が増えていますが、個人投資家の大半はこうしたネット取引業者を通じて取引をしています。ネット取引で重要なのはシステムですが、そのシステムが信用できないようなものでは問題です。長時間に渡るシステムトラブルの結果、売りたい時に株が売れず投資家に不利益が生じたというようなことにもなります。したがって、ネット証券のようなシステムの信頼性確保が何よりも重要な会社については、そのチェックのため、コンピュータシステムの専門家を検査に参加させています。

 この他、監視委は民間金融機関出身者も多数在籍しており、多様性に富む組織となっています。

<証券取引等監視委員会の活動状況>
 監視委の活動状況ですが、犯則事件の告発は、年間10件から15件くらいの件数となっています。先程述べましたように、告発まで持っていくには証拠固めに相当時間を要するので、この数字はそんなに急に増加することはありませんが、最近の特徴は発行市場と流通市場の両方にまたがった複雑な事案や、クロスボーダーの案件等、困難な事案に積極的に取り組んでいる点が挙げられます。一方、課徴金納付命令に関する勧告ですが、これは平成17年に制度が導入されて以来、増加傾向が続いています。

 証券検査は、多い時で年間200社くらいの業者を検査しています。東京に本社があって全国展開している証券会社や、外国証券会社は監視委が検査をしていますが、地方の業者については各地域の財務局が検査を担当しています。

<証券市場の参加者と証券取引等監視委員会>
 証券市場の参加者ですが、主なものとして上場企業、証券取引所、金融商品取引業者(証券会社等)、投資家の4つが挙げられます。これら参加者は相互に関係を有しており、投資家が投資を行うときは、証券会社を通じて行うことになります。証券取引所で取引できるのは会員の証券会社だけなので、一般の投資家が証券取引所に直接売買の注文を出すことはできず、必ず証券会社を通じて注文が出されることになります。

 上場企業についてですが、上場するということは取引所でその会社の株が売買されるということです。過去には、企業にとって証券取引所に上場するというのは非常に大きなステータスでした。東京証券取引所の一部上場企業といえば、歴史があり、誰でも名前を知っているような企業でした。

 これに対し今は、新興市場というものが出てきています。皆さんも名前を聞いたことがあるかと思いますが、ジャスダック、マザーズ、ヘラクレスなどというものです。これら新興市場は、設立後まだ間もなく、あまり業績も上がっていない、しかしながら事業の内容等から見て、今後成長が見込めるという企業を上場させ、これら企業が資金調達をし易くするという目的で設立されています。したがって、上場の要件は東証1部等に比べると緩和されています。現実に、こうした目的に沿った企業がこれら市場に上場し、成長を遂げていった例が多く見られる一方、監視委が取り上げた不公正なファイナンスや反社会的勢力との関係等の問題を起こした企業も見られます。投資家は株式の購入という形で上場企業へ投資をする、上場企業はこれに対して、配当という形で利益を分配しています。

 監視委はそれぞれの参加者に対して検査・調査権を有しています。私が所属する証券検査課は証券会社等を検査対象にしていますが、インサイダー取引や相場操縦といった行為は何人もやってはいけないという犯罪ですから、一般の投資家も調査の対象になります。

<不公正取引について>
 金商法に定められている不公正取引としては、先程述べましたインサイダー取引、相場操縦、風説の流布、偽計、暴行脅迫等があります。風説の流布とは株価を上下させる目的で噂を流すことです。風説の内容は、嘘か事実かを問いません。偽計とは詐欺的な手段や不公正な策略を弄した取引等を指しています。

 相場を変動させるため暴行脅迫を行うことも罪になります。これが適用された例があります。それは、ドン・キホーテの株を売った者が、ドン・キホーテに放火をし、役員に脅迫状を送ったというケースです。この者は、ドン・キホーテの株を借りて売る、すなわち空売りをしていました。借りた株を100円で売った後で、その株が50円になっていたら50円で買って返せるので、利益が得られます。つまり、株価が下がると儲かる立場にいる訳です。この者は、ドン・キホーテの株価を下げる目的で放火等の行為をしていました。暴行脅迫の条文を使って立件化した例です。

<最近の主な刑事告発事例>
 最近刑事告発した事例ですが、国内大手証券会社の社員がインサイダー取引をしたケースがあります。証券会社には業務の過程でたくさんの情報が入ってきます。このケースでは、ある社員が企業の合併(M&A)の情報を入手し、その情報が公表される前に当該企業の株を売買したものです。インサイダー取引は何人もやってはいけない犯罪ですが、証券会社のように職業柄重要情報が入って来やすい企業の社員は、職業倫理上最もインサイダー取引をしてはいけない者であると言って良いと思います。

 それから、プロデュースという会社の事件、これは公認会計士が関与して有価証券届出書の虚偽記載をした事件です。売上高や利益を水増しして記載したものですが、これも、職業倫理上こうした犯罪を最もしてはいけない公認会計士が指導して、虚偽の書類を出させていたということです。

 それから、ネット取引による「見せ玉」を用いた相場操縦の事件があります。これは、比較的最近の事件ですので皆さん存知かもしれませんが、早稲田大学の投資サークルのOBがネット取引で相場操縦をした事件です。注文の情報(イタ情報)は投資家がネットで見ることができますが、ある銘柄に大量の買い注文が入ると、その流れに便乗して買おうという投資家が出てきます。これらの投資家はその株を確実に買うために、今出さている注文よりも高い価格で買い注文を出します。自分が買うつもりもないのに入れた注文により、高い額で注文を出してくる者が現れた、そこで買い注文を取り消すとともに、自分が予め安い価格で仕入れておいた当該銘柄の株を売り抜けて利益を上げる。これが典型的な「見せ玉」の手法です。この早大OBたちは、こうした「見せ玉」による相場操縦を5年にも渡り行い、相当の利益を上げて派手な生活をしていたということです。

 こうした相場操縦は、かつては仕手筋と呼ばれ、そういうことを専門にしているような一種のプロが手掛けるものだったのですが、最近のネット取引の浸透により普通の個人が相場操縦に手を染める時代になってきました。この早大OBたちは、悪いことをしているという意識はなく、ゲーム感覚でこうした行為を繰り返していたと言われております。

<最近の主な課徴金勧告事例>
 課徴金の勧告事例ですが、NHKの記者がインサイダー取引をした事件があります。マスコミの記者もやはり企業の情報が早く入ってくる立場にあり、最も厳しく自らを律することが求められます。この事件では、NHKの記者が取材先からある企業が別の企業と資本提携するという情報を得て、この情報を社内で得たNHKの職員がその企業の株を売買して利益を得たという事件です。

 それから、監査法人の公認会計士によるインサイダー取引の事件、また、外資系証券会社の社員によるインサイダー取引の事件があります。先程から申し上げているとおり、職業倫理上最もやってはいけない人たちが、自らの地位を利用して儲けを上げるようなことが野放図に行われてしまうと、投資家は市場に対する信頼を失くしてしまいます。これらの事例を取り上げているのは、こうした分野の人たちに警鐘を鳴らすという意味もあります。

<最近の不公正取引の傾向>
 従来の不公正取引は比較的単純な手口であり、ほとんどが国内で行われていました。先程触れましたように、昔は新興市場というものがなく、上場の途はハードルの高い東証や大証等しかなかったので、ハードルをクリアして上場した企業は相応の内部管理態勢や法令遵守態勢を備えていたと思われます。

 一方、最近の不公正取引で目立つのは、新興市場の企業が関与している事例です。例えば、新興市場に上場した製造業の会社が、業績が悪化し外部から資金調達を図る。それに付け込む者が会社の支配権を握る。そして上場企業のステータスを使って、自らの利益のために資金調達を行う。こうした事例は少なくなく、手口も複雑化してきています。

<インサイダー取引の要件>
 インサイダー取引の要件として、(1)会社関係者・情報受領者であること、(2)重要事実であること、(3)公表前であること、(4)有価証券(株式等)の売買をしたこと、があります。

 インサイダー取引の対象者は、会社関係者、対象企業の役職員です。役職員には会社を辞めてから1年以内の人も対象となります。次に、会社関係者から事実の伝達を受けた情報受領者も規制の対象となります。例えば、ある会社が別の会社を合併するということを取締役会で決定し、これを一週間後に公表しようという場合に、取締役会で決定した事実を知っている会社の役職員は、その会社の株の売買はできなくなります。重要な要因はその事実が公表前が公表後かということです。公表前にその株の売買をすることはアウト、公表されていればセーフということになります。

 さらに、会社関係者でなくても、社員が奥さんにその事実を伝え、その情報に基づき奥さんが会社の株を売買することも情報受領者として規制対象となります。それでは、その奥さんから当該事実を伝えられた奥さんの友達がその株を買った場合はどうでしょうか。この場合はセーフです。情報受領者で規制対象となるのは、第一次情報受領者までです。これは、全ての情報受領者を規制対象とすると、対象者が果てしなく広がってしまう可能性があるという問題、また、情報は又聞きが重なるほど真実性が乏しくなるという問題があるからです。

 次に、重要事実とは何かという点ですが、会社の合併、業績修正、増資、画期的な新商品の開発等の情報といった、投資者の投資判断に影響を与えるような重要な事実が該当します。

 インサイダー取引違反の場合、刑事罰では個人については5年以下の懲役、500万円以下の罰金、法人は5億円以下の罰金が科せられます。課徴金の場合は、一定の方式により算出された金額を支払うことになります。課徴金納付処分と刑事罰の両方を併科することも可能ですが、実際にはどちらか一方の処分が課せられています。

 ここで強調しておきたいことは、インサイダー取引は必ず見つかるということです。証券取引所や監視委は常に個別銘柄の株価の動きや、注文の動向をモニターしています。例えば決算見込み修正等の重要事実が公表された銘柄について、公表直前に株式を買って、公表後株価が上がった時点で売り抜け、利益を上げているような事例は必ず網の目に引っ掛かってきます。こんな小さな額なら見つからないだろうなどと変な気は起こさないほうが身のためです。

<市場参加者に期待される役割>
 最後に、市場参加者に期待される役割についてお話しします。監視委は法令に違反した者の告発、勧告等を行うことにより、市場参加者に法令遵守を浸透させる役割を負っていますが、こうした役割はひとり監視委だけのものではありません。監視委が全ての市場参加者の全ての取引をチェックするのは不可能です。ここで重要なのは市場参加者の自己規律です。個々の証券会社や投資家、上場企業等において自己規律が徹底される、そうして初めて公正公明な市場形成が可能となります。

 将来増資による資金調達を考えている、しかし今期決算は大赤字になりそうだという上場企業があるとします。その時赤字ではまずいから、利益を水増ししようと社長がいったとしても、取締役会あるいは監査役がブロックするというように内部統制が機能している必要があります。

 それから株主も企業に対して物申す立場にありますし、監査法人は有価証券報告書等の監査を行う立場から、仮に会社が変な決算操作をしているようだったら、それを指摘して正す役割があります。証券会社は、上場企業や投資家と関わりを有しています。企業が資金使途に疑義のある資金調達を目論んでいるような場合は、引受証券会社はこれを止めないといけません。

 自主規制機関とは、証券取引所や証券業協会を指します。証券取引所の会員は証券会社です。証券取引所は、会員たる証券会社が法令違反や不適切な行為をした場合は、ペナルティーとしてお金の支払いを命ずることができますし、期限を定めて会員権を停止するということもできます。証券業協会は証券会社が集まって組織している団体です。証券業協会には自主規制機能があり、証券会社を検査して、法令違反や規則違反が見つかった場合にはやはり処分を行うことができます。監視委のマンパワーは約700名程度で、その監視活動には限りがあります。したがって、これら自主規制機関との連携により総体として効率的・効果的に監視活動を行っていく必要があります。

 証券ビジネスには、様々な局面で弁護士が関与しています。新たな商品や取引が法令に抵触していないかどうかのチェック、資金調達の仕組みづくり、企業買収のアドバイス等幅広い分野で弁護士の知見が求められています。こうした中で、弁護士は法令に抵触するような行為に対する抑止力としての役割を果たすことが期待されています。

 このように、市場参加者それぞれが期待される役割を果たすことにより、公正な市場、投資家が安心して参加できる市場が成り立つのです。監視委としても、市場参加者との対話を重ね、市場規律の強化への働きかけを行っています。

<最後に>
 証券取引等監視委員会は、法曹関係者の活躍の場が多い組織です。今後、皆さんがご自分の将来を考える際に、監視委のことも頭の片隅に置いて頂ければ幸いです。時間が参りましたので、私の説明はここまでとさせて頂きます。どうもありがとうございました。

質1:米国のSECとの大きな違いは規則制定権があるかないかというところであり、日本の証券取引等監視委員会には規則制定権がないということですが、それによって大きな違いが出てきていますか?
答1:当委員会には規則制定権はありませんが、金融庁に対し建議という形で規則制定を求めることができます。実際にもこれまで多くの法令改正が監視委の建議に基づき行われています。したがって、監視委に規則制定権がないことで、何か不都合が生じているということはありません。
質2:インサイダーの要件の中で公表前という要件があり、東証のネットに掲載される前だと、2つ以上の報道機関に掲載されて12時間以上経過というものがあったと思います。よく株をやっていると、ロイター等のニュース速報で、○○社の社長緊急会見の報道により株価が急上昇したり急降下したりということがあります。そのような場合も、その情報を元に株を売買すると公表される前に売買をしているということになってしまいますから、インサイダーに該当してしまうのでしょうか?
答2:「重要事実の公表」に該当するかどうかは内容によるので、個別具体的に判断する必要があります。また、「公表」の方法については、疑義を避けるために東証のTDnetを活用するのが一般的になっているようです。

◆編集後記

 今回は、証券取引等監視委員会証券検査課の其田修一課長によるご講演「証券取引等監視委員会の活動と市場参加者の役割」の概要をお届けしました。ご講演概要の掲載にご快諾いただいた其田課長様、また、ご講演概要の作成にご協力頂いた証券取引等監視委員会事務局の高橋祐二様に心から御礼申し上げます。

 仙台では青葉まつりが終わり、新緑の美しい季節になりました。
 これからの時期は、入試説明会やオープンキャンパスが開催されます。東北大学法科大学院に興味がある方は是非ご参加下さい。

(杉江記)

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作業のため時間がかかる場合がございますが、ご了承ください。

発行:東北大学法科大学院広報委員会

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