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東北大学法科大学院メールマガジン

第59号 04/30/2010

◇2011年度 東北大学法科大学院学内入試説明会行われる

 去る4月26日に東北大学法学部第3講義室(川内南キャンパス)にて、本学の学生を対象に、学内入試説明会が開催されました。

 当日は、約30名の来場者を迎え、法科大学院長の佐藤隆之教授による東北大学法科大学院の概要についての説明、蘆立順美准教授による平成23年度法科大学院入学試験についての説明などが行われました。ご来場いただいた皆様に、心から御礼申し上げます。

 今後はオープンキャンパスの開催等も予定しております。詳細が決まりましたら、お知らせします。

◇新法科大学院長ご挨拶

 今回は、本年4月に東北大学法科大学院長に就任しました佐藤隆之教授の、新入生向けオリエンテーション時のご挨拶をお送りします。佐藤教授は、本法科大学院において、刑事訴訟法、実務刑事法を担当しています。

ご挨拶

東北大学法科大学院長 佐藤隆之教授

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。

 今年は、東北大学法科大学院第7期生として、未修者23名、既修者56名の総計79名の新入生を迎えることができました。法曹を目指す皆さんが、優れた研究者、実務家の先生方を擁する東北大学法科大学院を学舎として選ばれましたことを、大変うれしく思います。
 法科大学院のコミュニティを構成する一人として、より優れた、そして信頼できる法律家となるために研鑽を積む仲間として、皆さんを歓迎いたします。

 皆さんもご存じのとおり、法科大学院は、司法制度改革の一環として、法曹養成の一翼を担う教育機関として、平成16年に、新たに設けられました。

 法科大学院が設けられるまでの間、大学には、実務法曹を養成するための専門的な教育課程は存在しませんでした。
 法曹資格は、司法試験に合格した者に与えられるものとされ、受験生がどのような教育過程を経たかは問題とされませんでした。司法試験の合格者は、その後、司法研修所で実務修習を受け、さらにその修了試験に合格することにより、実務法曹となっていったのです。

 ただ、従来の司法試験が、一発勝負の試験で、極めて激しい競争試験となっていることによって、受験者の一定数が、試験に合格することを至上命題として、効率的に受かるような勉強しかしようとしない、例えば、判例や学説を手軽にまとめたものを使って勉強し、判例の原典や体系書をじっくりと読んだ経験もなく、試験で減点されないよう最低限何を書けばよいかさえ分かればよい、という姿勢で学習を進めることとなった結果、自ら思考し、悩んだ形跡を窺うことのできない、型にはまった平板な記述に満ちた答案が目立つこととなったのです。

 「法的問題には常に何か単一の解答があって、こういう問題にはこう答えればよい、このような解決のマニュアルに沿って、その内容を疑うことなく、それを覚え込めばよい」といった姿勢が、受験生、さらに、合格者の中でも、抜きがたいものとなっているのではないか、という危機感が、関係者の間に広がっていきました。

 さて、法科大学院が設けられた後、受験生の間にみられた、このような傾向は姿を消したのでしょうか。
 皆さんもご存じのとおり、新司法試験が極めて激しい競争試験となっており、短期間での合格というプレッシャーは従来以上かもしれません。その結果、法科大学院の在学生、修了生の中に、なおこれまで述べたような姿勢の人が存在することも否定できないのが実情だと思われます。

 確かに、法律学の問題を考える上で、検討の進め方に一定の型や手順といったものがないわけではありません。むしろ、それを身につけていることは不可欠とさえ言えます。また、短期間で合格することも、不安的な立場に置かれた受験生にとって重要な関心事であることもよく理解できます。たとえ平板であろうと、間違ったことを書いていないのならよいではないか、必要最低限のことを書いているのならよいではないか、と思われる方も、皆さんの中に少なくないかもしれません。

 しかしながら、そこに含まれている問題は、単に試験答案の水準にとどまらず、専門的職業人である法曹としての姿勢に関わるものであるように思われるのです。

 司法試験に合格することを至上命題とし、判例や学説を手軽にまとめたものを覚え、それを再現することに主眼を置くならば、自分がその理由付けや結論に真に納得できるか否かは二の次となり、従来の議論を無批判に飲み込む、という作業を一定期間にわたって繰り返すこととなります。
 しかしながら、そのような批判的検討を省いた理解は、まず、他者からの批判的な追及によく耐えることができません。

 また、弁護士、検察官、裁判官いずれの途を選ぼうと、専門的職業人である法曹は、これまでに出会ったことのない問題が含まれている紛争に直面することとなります。その場合に、その紛争に含まれている問題を把握し、最後は、誰に頼ることなく、自らの能力と責任で、適切な解決策を導き出していかなければなりません。しかし、そのような主体的な判断は、自分の頭で考え抜く訓練を重ねることなしに、一朝一夕にできるようになるものではありません。

 さらに、法曹は、人々の大切な財産や自由に関わる職業であり、その判断が、文字どおり、人の生死を決することがあります。弁護士であれば、依頼人に正面から向き合い、自らの信じるところを伝える必要があるでしょう。また、利害の相反する紛争の相手方に対するときは、なおさら自分の頭で考え抜いたことでなければ、相手を説得し、納得を得ることは難しいと思います。

 そこで、基礎的な学習の過程を、法曹養成の過程に取り込み、法曹として必要な基本的素養、法の体系とそれを支える基本的な原理についての幅広く実質的な理解を基礎として、問題を筋道立てて、他の問題への対応とも整合性を取りながら、合理的に解決していく思考方法を、きちんと身につけてもらうため、法科大学院が設けられることとなったのです。

 例えば、法科大学院では、法学部教育がそうであるような大教室での講義形式ではなく、法律基本科目については、およそ50人を1クラスとして、双方向形式での授業を行っています。

 これは、教員と学生との討議を通じて、問題の所在を明らかにし、その解決に向けて検討を行うものです。この形式は、教員が大教室で一方的に解説をする形式に比べて、時間もかかり、結果的に扱うことのできる範囲も狭くなります。教員が一定の解答を示してくれればそれでよい、もっと多くの範囲を扱ってくれ、という声が現在もないわけではありません。

 しかし、そこでは、いろいろな角度から、学生の主張をあえて批判的に点検することによって、それがどの程度主体的な考慮を行った上で選択されたものか、また、他の主張に比して、相対的に説得力に優る議論といえるのか、確認をしているわけです。

 その討議の過程が、とりもなおさず、法律家の思考過程を目に見える形にしたものであって、主体的に議論を組み立て、説得的に表現するということがどういうことかを示し、それを体得させる訓練になっているのです。教員の側は、そのような考え方を持って授業をしています。

 したがって、当該分野の全ての項目を授業で取り扱わなくても、そこで実演された問題の捉え方や分析の仕方を体得することができれば、他の項目についても、また、将来出会うであろう未知の問題についても、どういう筋道で議論をすればよいか応用できるだろう、ということが、このような授業方法を採用する前提となっているのです。

 ここで一つ皆さんにお願いがあります。
 この双方向形式の授業においては、他人から批判されることを怖がらないこと、そして、間違うことをおそれないことに留意していただきたいと思います。

 法律学は議論の学問であり、そこでは、討議を通じて、問題のよりよい解決が模索、探求されます。このことは、法廷での法律家のやりとりを想像していただければ理解していただけると思います。人の意見に耳を傾け、よいところは取り入れ、納得できなければ、率直に質問を投げかければよく、批判されたからといって、自分のことを人格的に否定されたかのように捉える必要はありません。

 教室で指名されたときに失敗したくない、というのは人の心理としてはよく理解できますが、間違うことによって印象深くその事柄を理解することもありますし、せっかく自分の考えていることを吟味してもらえる好機なのですから、その場しのぎの姿勢ではなく、その機会をうまく活用し、法律家の思考に早くなじみ、それを体得されることを望みます。

 それから、法科大学院では、法曹を目指す多くの仲間と一緒に学習することができる、ということも、従来の司法試験受験生に比べ、大きく違う点であろうと思います。
 学習の過程で生じた疑問について、自分一人ではうまく解決できないこともあるでしょう。そこで、教室や自習室で机を並べる仲間に質問し、その人の考えをよく聞き、また、自分の考えを説明するぶつける中で、自分の誤解に気づき、あるいは、一つの問題を解決するために多様な視点や考え方があることを理解していただきたいと思います。

 先輩たちも、自主的な勉強会ゼミなど、授業以外に、気兼ねなく討議のできる場を設け、学習をしてきました。皆さんも、ぜひそのような機会を積極的に設け、この法科大学院の持つ、闊達な雰囲気を受け継いでいただきたいと思います。

 法科大学院制度や司法試験制度をめぐっては、なお流動的な要素が大きく、また、多くの批判も聞かれるところです。
 しかし、東北大学法科大学院の教育課程は、皆さんが今後、法曹としての職責を全うする上で基盤となる知識、能力を養い、足腰の強い法曹を養成することに向けて、十分な検討を経て構成されたものです。そして、私たち教員も、皆さんへの助力を惜しまないつもりです。

 今夏、エクステンション教育研究棟が竣工すると、教室や自習室、図書室をはじめ法科大学院のすべての施設が一つの建物に集約されることとなり、皆さんの学習環境はより充実することとなります。この緑あふれる落ち着いた環境の下、先生方を信じて、学習に専心していただきたいと思います。

 皆さんが法曹を目指されるのは、それぞれが法律の専門家となることを通じて、よりよい社会の実現に貢献したいと考えられているからだと思います。
 その初心を忘れず、本法科大学院において切磋琢磨し、高い志を持って学修に励まれることを、そして、よき仲間、先輩、教師に出会い、実り多き学生生活を送られることを期待しております。

 以上をもちまして、挨拶のことばといたします。

◆編集後記

 仙台でも4月の下旬に入って、ようやく桜が満開になりました。ゴールデン・ウィークが終わると今度は新緑の季節。特に勉強に適した季節になります。是非充実した時間をお過ごし下さい。

 平成21年度より広報委員会メンバーが交代しました。昨年度のメールマガジンは積極的な情報発信、必要な情報の適時提供、コンスタントな発行を心がけてきましたが、今年度も同様で参りたいと思います。ご期待下さい。

(杉江記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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