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東北大学法科大学院メールマガジン

第57号 03/31/2010

◇2010年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

 2010年度の本学法科大学院の入学試験問題及び出題趣旨について、ホームページに掲載されました。下記のページをご覧ください。
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/info/kakomon/2010/

◇特別講演会

 今回は、去る2009年10月28日に、長島・大野・常松法律事務所の関根攻弁護士をお迎えして行われた特別講演会のご講演概要をお送りします。ご講演では、関根先生がこれまで扱ってこられた渉外事件や企業法務等のご経験について非常にエキサイティングなお話を頂きました。
 関根先生には、4月より、本学において企業法務演習Ⅰ、リーガルクリニックをご担当頂くことになっております。

一渉外弁護士の歩み

関根 攻 弁護士

<はじめに>
 ただいまご紹介頂きました弁護士の関根です。宜しくお願いします。司法研修所は、当大学の石井彦壽教授と同期の第21期生でして、弁護士登録は昭和44年(1969年)です。それ以来今まで40年に亘り弁護士業務に従事してまいりました。

 私は東京の長島・大野・常松法律事務所でファイナンス部門に所属して、主として金融機関の金銭貸付、資本市場における証券発行、ストラクチャード・ファイナンス、金融機関の資本政策やコンプライアンスなどの案件に弁護士として関与してまいりました。同事務所の定款に従いパートナー定年である65歳を迎えてパートナーを退任し、ただ今は顧問という立場におります。

 その頃、弁護士になりたての若手はベテランの先生の事務所に勤務して、仕事を教わりながら訓練を積む形が一般的でありまして、これを居候弁護士(略してイソ弁)と呼びます。勤務形態は形式的には二つの形態に分かれ、(イ)先生から支給されるサラリーが給与所得扱いの雇用契約関係である場合と、(ロ)先生から事案毎にその処理を委託される継続的な委任契約関係であって、支給されるサラリーを事業所得として申告する場合がありました。

 最近では法曹人口が増えて1年に2000名を超える司法修習生が採用され、その過半が弁護士登録をするようになりましたが、第三の形態として「軒先(ノキサキ)弁護士」と称されるものが出現している様です。これは、先生から継続的に仕事を委ねられる保証もなく、従って毎月のサラリーが支給される保証はなく、先生の事務所の一画に机を置かせてもらい、場合により時として先生の仕事に関与して訓練を受けさせてもらう形態の様であります。皆さんがこれから弁護士になる場合は、この3つの形態があるわけです。

 弁護士業務の開始から2年間は、司法研修所の実務実習中に弁護士実務の研修を受けました先生の事務所にイソ弁として勤務し、一般民事事件を処理をしました。その後、弁護士登録後2年を経過した頃に、大学時代の先輩の渉外弁護士から、渉外法律事務について説明を受ける機会があり、好奇心を刺激されました。外国企業を依頼人(client)とし、電話やtelex、手紙により英語で担当者と打ち合わせをし、相手方の日本企業や政府の関係官庁と交渉して内容を詰め、これを英語でまとめて報告すると聞いて、それまで専ら訴訟事件の処理に従事して来た弁護士事務と全く異なる渉外事件に大いに興味をそそられた訳です。

 その当時、若い弁護士はイソ弁として数年程度、所属事務所の先生の教えを受けた後、小さな個人事務所を始めて独立していくのが通例でした。私は、個人事務所を一人で切り盛りしていくことを考えてみたこともありませんでしたし、取り扱う案件としても、一般的な民事事件というものにはあまり熱意を感じられず、漠然と将来については、例えてみれば、公立の大病院の勤務医のように専門分野に精通した法律実務家を目指したいと思っていましたので、先輩の渉外弁護士の事務所に移ってお世話になることにしました。

<渉外法律事務について>
○渉外法律事務について
 その頃の渉外法律事務と言いますと、主に米国企業を代理して、駐在員事務所や日本支店の設置、日本の子会社や日本企業との合弁会社の設立、日本企業を相手方とする販売代理店契約(distributorship agreement)や技術援助契約(technology licensing agreement)のために、依頼人である外国企業の担当者(特に彼等のin-house lawyer)との間の電話、telex又は会議による打ち合わせ、彼等に対する英文による説明資料(memorandum)の作成、日本政府及び日本企業との交渉及び契約書の作成でした。

 このような通例の依頼案件に比して、特徴的なケースもありました。African Lion Kingdomという名の自然動物園の日本版を設立する案件です。広大な自然公園の中にライオンを自由に生息させ、人間が厳重なガラス張りのバスに乗ってライオンを観察するというものです。南アフリカの事業家から依頼を受けまして、入会権が複雑に入り組んだ富士山麓に広がる原野を候補地としてその取得交渉をすることになりました。地区住民に集会所に集ってもらい説明会を何度も深夜まで開催しましたが、そのうちに噂を聞き及んだ建築業者や地元政治家などが接触して来て、益々交渉の行方が見えにくくなったのを覚えています。

 1970年代の我が国では今と大いに異なり、国際商取引に対する国家法による管理が非常に厳格な時代でした。即ち、外国為替及び外国貿易管理法(外為法)の下で、我が国の国際収支に影響ある全ての取引及び行為について、原則として禁止し又は制限を加え(原則禁止)、政省令等によって禁止の例外を設けたり、制限を解除するという制度でありました。また、良質な外国資本の導入による国内経済の発展のために、外資に関する法律(外資法)が存在し、これも同じく原則として政府から認可を得ることが必要でした。

 従いまして、例えば、外国企業を依頼人として国内企業との合弁会社設立案件を受任すると、外資法に基づく認可を得るために大蔵省及び合弁会社の従事すべき業種による主務官庁と交渉することが重要な作業でした。

○外為法違反事件
 その当時、ある外為法違反事件が摘発され、我々渉外弁護士にとっては大変なショックであったことを覚えています。当時の外為法では、居住者と非居住者間の支払は原則禁止です。これと共に、居住者間の支払、円払いであっても、「非居住者の為にする居住者から他の居住者への支払」も「非居住者の為にする居住者の他の居住者からの支払の受領」も同様に原則的に禁止されていました。

 ショックな事件とは、東京の弁護士会の会長を務めたこともある有力な弁護士が外為法違反で摘発されたものです。事件の概要はこうです。米国旅行中、ラスベガスに立ち寄り、賭博で大損をした日本人が負け金を不払いのまま帰国したところ、ラスベガスの胴元から負け金の回収の依頼を受けた弁護士がその日本人に対して支払請求をして、金銭を収受したのであるから、同弁護士は、「非居住者のために居住者から支払を受領する」に該当するにも拘わらず、これについて外為法に基づく許可を取っていなかったのであるから外為法違反であると検察は主張したのです。

 しかしながら、その当時、外国企業を代理する弁護士が日本企業に対して売買代金支払や貸金の返還請求訴訟を提起し、勝訴の上、執行して金銭を収受するなどの事案は多くあった訳ですが、ほぼ間違いなく多くの弁護士は事前に外為法上の許可を取ったことなどなかったのです。その意味では弁護士の行う債権回収については外為法上の許可を事前に取得しなければならない規定は永い間眠っていたといっても良い状態でしたが、突如として、検察が立件したことには、驚きと共に事件の適正処理について不信感を覚えたものです。

○米国のlaw schoolへの留学
 その後、1973年に米国のロースクールに留学する機会を司法研修所から与えられました。その頃、米国のHarvard Law School, Washington Law School及びTexas州DallasにあるSouthern Methodist Law Schoolの三つのlaw schoolと司法研修所との間に取り決めがあり、司法研修所が毎年推薦する各1名が無試験で自動的に上記law schoolのLLM courseに受け入れてもらえることになっていました。その当時は日本にはlaw schoolがなく、米国のlaw schoolから見ると、彼等と同等と見做し得るprofessional schoolは、当時日本では唯一司法研修所だけだと考えてのarrangementだと聞いています。大学の法学部はロースクールではないと考えられていたようです。

 司法研修所では、弁護士、裁判官及び検察官の中から候補者を募集し、米国連邦最高裁の判決などを素材にした筆記試験と面接試験を実施して3名を選定し、各law schoolに1名づつ推薦していました。幸運にも司法研修所からHarvard Law Schoolに推薦を戴きました。そうしますと、そのlaw schoolから自動的にadmissionを受けると共にtuition fee免除という奨学金を与えられました。

 留学をしたいと思ったのは語学力をつけることはもちろんですが、英米法の基礎を学びたいと思ったからです。また、10年後の1980年代には、日本でも弁護士の取り扱う案件として重要性を増すのは、独占禁止法、証券取引法、知財法、あるいは税法の分野であろうと予想し、その中から独占禁止法を研究分野に選びました。(証券取引法関係の案件が多く法律事務所に持ち込まれるようになったのは、想定どおり1970年代の終わりからですが、税法と独占禁止法関係の案件については、私の想定より大分遅れ、2000年以降だと思います。)

 留学中何よりも苦労したのは、英語のhearingです。各授業前にかなりの分量の判例を読みこなすアサインメントを十分にやって授業に臨むことが必要です。これは努力すればそれ程困難ではありません。授業方法は、勿論ケース・メソッドといわれる判例を素材として、判決に至るreasoningの適否について、教授が次々と生徒に質問を浴びせ、意見を述べさせて、それを教授が引き取って、また別の生徒に別の質問を投げかけるという目まぐるしいやりとりです。それが、大きな教室で前の列に着席する生徒を指したかと思うと、次はずうっと後方の席の生徒を指すのですから、いろいろな方向から早口で話す生徒の言葉をfollowするのは大変です。ほとんどノートを取る余裕はなく、苦労したものです。

 若いロースクール生の皆さんがこれから法曹のどの道を選択するにしても、事実上の公用語である英語が必要であることは間違いありませんから、hearingには特に努力を傾注することをお勧めます。特に、若い人は若い時から努力されることを希望します。

(留学中、戦後30年ぶりにルバング島から救出されたという小野田元少尉がボロボロの軍服姿で敬礼する姿がボストンの日刊紙Boston Globeに大きく掲載されたのを見て驚き、また先頃亡くなった韓国の金大中大統領がその頃滞在中の日本のホテルから拉致されたという新聞記事をハーバード・イェンチェン図書館(Harvard-Yenching Library)でショックを覚えながら読んだのを今でもよく覚えています。)

○帰国後の業務
 留学から帰国後は、日本経済が上り坂で石油をどんどん輸入している時期でしたので、shipping finance案件、特に大型石油タンカー(very large crude carrier)などの造船代金を貸付ける複数の銀行団の代理人として、貸金契約は勿論、船籍を、税金の非常に安い国であるLiberiaやPanamaに置く船に対する船舶抵当権設定(ship mortgage)及び定期傭船料債権の譲渡担保契約(time charter hire assignment)などの英文契約の交渉及び作成に多く関与しました。ship mortgageにつきましては、Liberia船籍の場合には、Liberia法に精通したニューヨークの弁護士に依頼して彼等から法律意見書を取り、Panama船籍の場合には、Panamaの弁護士に依頼して英文で作成したmortgage deedをSpanishに翻訳し、これを当局に提出してregistrationする訳です。この当時は、石油タンカーが次から次へと造られる時代ですから、朝出勤すると新しい案件の書類が机に積みあがっていました。この時期は、そういった案件をたくさん扱いました。

 次に、我が国の企業が無担保でも資金を調達できる欧米の資本市場で株式や社債を発行して資金を調達する証券発行案件を多く扱いました。これは日本の企業がそこまで発展したということですけれど、バブル崩壊の時期まで多く取り扱いました。日本企業ですから株式を規律するのは日本の会社法となりますが、社債の場合は、債権債務関係ですから、ロンドンやニューヨーク等の現地の法律が準拠法となります。社債の発行は現地の法律、募集契約も現地の法律、発行した後の支払代理契約も現地の法律となります。仕事の内容ですが、発行会社である日本企業を代理して、また他の場合には、外国の引受証券会社を代理して、投資家に対して会社を紹介する発行目論見書(Prospectus)の作成や、引受契約書(Subscription Agreement)その他の契約書類の交渉及び作成に関与しました。

 逆に、外国政府や外国企業が東京市場で円建の資金を調達するために円建債券を発行する案件も数多く出て参りました。米国、メキシコ、オーストラリア、タイ、フィリピン、デンマークなどにdocumentationのため1週間程滞在して交渉し、帰国後は、これを契約書に仕上げる仕事にも関与しました。

 このような社債や政府債を発行する場合、金銭債務を規律する法律は、日本で発行するわけですから当然日本法になります。日本の証券会社と発行者との間の契約や、社債の元利金の支払資金を受領するため日本の銀行と発行者との間の契約も日本法が準拠法となります。正本は日本語で作成しますが、それを翻訳したものを発行者等に交付しました。また、日本の投資家向けの発行目論見書(Prospectus)も作成しました。発行目論見書の作成は、後で、投資家からのクレームがないように、非常に慎重に行いました。

○ある事件 −インドの石油天然ガス公社の民営化
 法曹を目指す皆さんもいずれ感じることがあると思いますが、渉外事件を取り扱うようになると、日本の法律は非常に使い勝手が悪いと感じることがあります。

 これ等の案件の中で法律的な問題で苦労した案件として、今でも記憶に残るものがあります。インドの石油天然ガス公社が東京市場で円建債券を発行した後に同公社が民営化され株式会社に移行することになりました。そのためには、同公社が解散し、同公社の全ての権利・義務が新設される株式会社に承継されることになりました。

 ここで問題となったのが、民営化のために同公社を一旦解散し、株式会社化することが同債券の債券要項中に規定された期限の利益喪失事由の一つに該当しかねないことでした。同債券の受託会社(その後の改正商法以後、社債管理会社と呼ばれるものが、当時の商法では受託会社と呼ばれていました。)である銀行は、債権者集会を開催して、同債券の期限の利益を喪失させることは、発行体の信用力を国際的に低下させることになり、引いては同債券の市場価格を低下させ、またその流通を阻害することから、同債券の保有者の利益にもならないとして、期限利益の喪失は回避したい意向でした。

 そこで、同債券の信用が公社が株式会社として民営化されても、従前と変わらないことを確保するため、インド国政府の保証を同債券に付けることで解決しようということになりました。まず第一に困難を極めたのは、インド側にこの解決案を了解してもらうことでした。インド側の主張は、彼等は英国法下のuniversal successionの概念を参考として持ち出して、本件もこれに該当するから、本件民営化の過程で法形式的には瞬間風速的に起こる石油天然ガス公社の解散を期限の利益喪失事由に該当するなどとは認められないと強硬な意見でした。これも受託会社のねばり強い説得によりやっとこの解決案に対するインド側の同意が得られましたが、次に問題となったのが既に発行されている債券についてインド国政府の保証をどう付するかでした。

 当時の商法309条1項は「受託会社ハ社債ノ償還ヲ受クルニ必要ナル一切ノ裁判上又ハ裁判外ノ行為ヲナス権限ヲ有ス」と規定し、本件債券の要項第22項は、「受託者は、本債券の債権者のために本債券の元利金(額面超過金を含む。)の支払を受けるために必要な一切の裁判上または裁判外の行為をなす権限を有し、義務を負う。」と規定していました。この規定によって、受託会社が債権者を代理してインド国政府と保証契約を締結することができるかが問題となりましたが、日本の商法学者に確認したところ、商法309条1項による受託会社の権限は従来非常に限定的に解釈されていて、受託会社にはインド国政府との保証締結の権限は認められないとの結論に至りました。

 次には、インド国政府と受託会社との間に本債券の債権者を受益者として第三者のためにする契約を締結する方法はどうかというと、債権者が保証人に対する権利を取得するには受益の意思表示が必要であるが(民法537条2項)、既に公募債として発行されてしまって多数の債権者の手に渡っているため、個々の債権者から受益の意思表示を得ることは現実的には難しい。

仕方がなくて、最後に採用したのが、インドの公団の社債の準拠法は日本法だったのですが、インド国政府がDeed Poll(平型捺印証書)により本債券の債権者に対して保証の意思を表示する単独行為でした。勿論このDeed Pollの準拠法はインド法であり、その有効性についてインドの弁護士より法律意見書を徴求しました。被保証債務である本件債券の準拠法は勿論日本法ですので、保証債務と被保証債務の準拠法が異なってしまいますが、仕方ありませんでした。

○優先株式の発行
 やがて、バブルがはじけて一般企業の起債案件は姿を消し、これに代わり過剰な不良貸付債権を抱える銀行のため資本増強案件に従事しました。すなわち、自己資本比率の計算上の分子を増強するために、銀行が国内外で、優先株式を発行する案件が多数出て来ました。

 優先株式を発行した場合に、発行会社が一番に神経を使うのが、種類株主総会の必要性を如何に合法的に回避できるかです。会社の重要事項について普通株主総会で承認を得ることは問題ないとしても、これに加えて優先株式の株主からなる種類株主総会の承認を得るには特別決議が必要となることから会社の懸念も当然といえます。

 この問題の一部解決方法と言えるのが、日本の株式会社は優先株式を直接的には例えばCayman諸島に設立した会社に発行し、このCayman会社が日本の株式会社の優先株式を裏付け資産として、市場でCayman会社の優先出資証券を投資家に発行する方法です。経済的には、日本の株式会社の発行する優先株式とCayman会社の優先出資証券とはmirrorの関係にあります。例えば優先配当金は同額です。また、日本の株式会社の優先株式について優先配当が支払われなければ、Cayman会社の優先出資証券の優先配当金も支払われません。

 しかし、日本の株式会社から見れば、その優先株式の株主は一人であり、種類株主総会を開催してその一人の株主の承認を得れば良いわけです。そして、Cayman会社自身がその優先出資証券の保有者の同意を得なければならない事項は極力限定的に規定しておくことによって、かなりの程度上記の懸念が解決されることになるわけです。これも、日本の会社法における種類株主総会の特別決議を避けるために、苦慮して作り出したシステムです。

○証券化案件
 更に次には、銀行が運転資金をなかなか融資してくれない事態に対処するため、一般事業会社が有する売掛金債権や消費者金融会社や信販会社が有する貸金債権などを期限前に現金化するための証券化案件、続いてオフィスビルなどの不動産を流動化するための証券化案件にも数多く関与しました。

 こういういわゆる証券化案件において、共通して重要な法律的ポイントは、証券化しようとする対象資産を元の保有者から切り離して、いわゆる特別目的会社(special purpose entity)に帰属せしめ、この会社がこの帰属した資産を裏付けとして、市場で投資家に自らの社債を発行するという仕組みで、この会社自身の倒産リスクを最少化する工夫(これをbankruptcy remote=倒産隔離と呼びます。)をすることです。この特別目的会社は設立したばかりで事業をやっていませんから、債務を負担していないcleanな会社です。

 この特別目的会社としては、設立が簡単なCayman諸島に設立した会社か、日本国内に設立した有限会社又は株式会社を使用していました。然しながら、わざわざCayman諸島で会社を設立しなければならないとすると時間と費用がかかりますし、また最低資本金が有限会社でも300万円、株式会社であれば1000万円が必要であったことから、日本国内でもっと使い勝手の良い会社の必要性が高まって、現行の資産流動化法の制定に至った訳です。

<法律事務所の合併>
 私の属する法律事務所は、1995年頃には主として金融関係の案件を取り扱ういわばboutique型の弁護士約20数名の法律事務所でしたが、2000年1月に、当時の長島・大野事務所と合併して現在の法律事務所となりました。合併当初の弁護士は合計95名でした。合併に際しては、弁護士間に種々の意見がありましたが、時間をかけて議論を尽くすうちに、将来の日本の企業の発展と歩調を合わせて弁護士も専門分野を広げていく必要がある、主要な法律分野を取り扱える大規模な事務所を設立することの社会的な意義と個々の弁護士がそれぞれ専門性を身につける意義の二つの点において次第に意見が集約され、両方の事務所共々一名の弁護士の脱落もなく、全員が合併後の事務所に参加する結果に落ち着きました。

 cross-borderの取引が盛んになると共に、我々のclientである銀行、証券会社及び事業会社も統合を重ね巨大企業となって行くのに伴う依頼案件の大型化及び多様化が進み、弁護士事務所だけが個人商店ではいられないということで、大規模法律事務所の誕生を促していたと言えます。

 その結果、約10年を経た本年10月1日現在の事務所所属員は次のとおりです。日本人弁護士316人、外国弁護士12人で弁護士計328人。パラリーガル103人、リーガルエデイター5人、秘書201人、事務局46人、職員合計355人。したがって、事務所所属員合計683人となっています。

<おわりに>
 私は、約40年間弁護士稼業に従事した大半をいわゆるbusiness lawyerとして、主として金融関連businessに関わって来た訳ですが、日刊新聞に取り上げられる主な経済記事に関連して、必ず自分を含む事務所内のいずれかの弁護士がこれらに関わって法律サービスを提供していることに刺激と生き甲斐を感じ、国内外の企業の日々の経済活動に直接連動する仕事ができたことを大変幸運であったと考えています。

 従って、これから法曹を目指す若い皆さんも、外国との取引を抜きにして日本が発展を維持する途はないと思いますので、是非challenging精神で外に向かって発信し、仕事でそれを実行するためにも、手を挙げて参加して頂ければと思います。皆さんが、奮って渉外弁護士としての道を目指されることを期待します。
 ご静聴を感謝します。

質1:長島・大野・常松法律事務所のサマーインターン(サマークラーク)制度はどのようなものですか?
答1:7〜9月の間の2週間くらい、いくつかのグループに分けて、担当弁護士の実際の仕事をみてもらう制度です。その間に若手の弁護士との交流の機会も設けております。交通費や宿泊費も事務所の方で用意しますので、HPをみて是非参加・応募して頂ければと思います。
質2:サマーインターン(サマークラーク)の募集の面接では、どのようなところが重視されますか?
答2:面接では、まずは応募者の意欲をみます。ロースクールの成績は、基礎科目の成績を見ることになります。あとは、入社試験と同様に、プレゼンテーション能力をみます。
質3:長島・大野・常松法律事務所では、語学研修の制度はありますか?
答3:語学力の習得は、本質的には自己努力だと思いますが、事務所に語学の先生に来てもらい、若手の弁護士30名くらいで、週に何回かの会話の機会をもつ研修を行っております。
質4:少人数の事務所と大規模な事務所の両方にお勤めだったとありましたが、少人数の事務所と大規模な事務所とでは、どのような違いがありますか?
答4:少人数の事務所ですと事務所全体が非常に緊密で相談等しやすい雰囲気があると思いますが、大規模な事務所ですと数百人の同僚がいるわけですから、同僚全員の顔はわからなくなります。ただ、訴訟部門、ファイナンス、知財、M&Aといったグループですと30〜40名程度なので顔見知りになることができます。先輩や同僚と意識的にコミュニケーションを図るように努めた方がよいと思います。また、大型の事務所ですと、例えば、事務所の名前で見舞状を出す場合等でも事務所全体で意思統一して何かするときは、かなりの議論が必要になりますので、様々な配慮が必要になってきます。
質5:本日のお話の中で、インドの石油公社の民営化のお話があり、日本法が使いにくかった例で紹介されておりました。インドの石油公社が民営化されるにあたっての同公団の解散が、同公団が日本で発行した社債の期限の利益の喪失事項にあたってしまい、不都合であったということだったと思いますが、社債権者からみればリスクが変わる可能性があるので意味があることと思いますが如何でしょうか?また、社債の債権・債務関係の準拠法の決定は難しい問題ですが、仮に日本法であったとしても信託制度を利用することはできなかったのでしょうか?
答5:まず、信託制度についてですが、無担保で社債を発行した後に物上担保を付加する場合は明文の規定はないものの解釈上担保提供者と社債発行会社との間の合意ですることができると解されています。しかし、人的担保の保証の場合は、保証人となるべき者が保証債務を負担する意思を信託の受託者となるべき者に表示することが信託法2条1号の「財産の処分」で読み切れないのではないかという問題があります。また、期限の利益の喪失についてですが、このケースは、もしインド政府の保証がなかったら、投資家の間で混乱が生じる恐れがあったケースでした。
質6:ファイナンスやM&Aの業務は、投資銀行でもアドバイザリー業務としてなされていると思いますが、法律事務所との役割分担はどのようなものでしょうか?
答6:おそらく投資銀行のアドバイザリー業務は、M&Aのターゲットカンパニーの紹介、M&A前後の変化の分析、ターゲットカンパニーの説得の方策等を含むM&Aの提案をする仕事だと思います。一方、弁護士の業務は、デューデリジェンス、例えば、ターゲットカンパニーの資産の状況の精査、株主総会や取締役会の議事録等の精査、労働法上の問題等、法的な問題点を依頼主に知らしめることを目的としています。
質7:デューデリジェンスの種類としては、財務デューデリ、事業デューデリ、法務デューデリがあり、財務デューデリについては監査法人がやっていると思いますが、最近のニュースで、ある監査法人が事業デューデリの分野の買収を行ったというものがありました。それに対して、法律事務所は法務デューデリをやっておりますが、今後、ニュースの監査法人のように、事業の買収等により事業デューデリの分野に進出していくことはありませんか?
答7:法律事務所が報酬を得るのは法律サービスを提供することですから、事業デューデリの分野に進出していくことについて話は聞いたことはありませんし、今後も進出していくことはないと思います。ただ、外国の企業から、法律事務所に企業の紹介の依頼等がたまに飛び込むことはあります。

◆編集後記

 今回は、関根攻先生によるご講演「一渉外弁護士の歩み」の概要をお届けしました。講演概要の掲載にご快諾いただいた関根先生に心から御礼申し上げます。

 全国各地からの桜の開花情報で賑わう季節になりました。片平キャンパスの桜もそろそろでしょうか。明日から新年度の始まりです。私もこの季節を、初心を思い出すきっかけにしたいと思います。

(杉江記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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