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東北大学法科大学院メールマガジン

第56号 03/12/2010

◇新司法試験 合格体験談

 「新司法試験合格者の講演会」における講演概要の第5弾、最終回です。今回は、去る平成21年10月26日(月)(第2回)にご講演いただいた甘利禎康さんの合格体験談をご紹介いたします。

合格体験談

甘利禎康さん

○自己紹介
 皆さん、おはようございます。今年の4月に修了しました甘利といいます。今日のお話ですが、前のお二人のお話がかなり内容の濃いものでしたし、重なる部分も多いと思いますので、私の体験談については手早くお話しして、あとは、皆さんからの質問の時間を多くとれればと思っております。

 まず経歴ですが、私は、学部時代は社会科学部にいまして、その後、新聞社に就職をして、法律とは無縁の生活をしていましたが、ある日、思うところがあってロースクールに、いわゆる純粋未修の立場で入学をしました。ですから、できれば未修の方に向けて少しアドバイスできればと思っております。その前に、L1から直前期までに分けて、その時期毎の勉強方法をまずお話したいと思います。

○L1〜L2期
 まず、L1からL2までの時期ですが、この時期は、授業を中心に、その予習・復習の毎日で、他のことをする時間はほとんどないというような感じでした。予習の手を抜くと、授業についていけないのではないかという不安もありましたし、その予習にかなりの時間がかかり、他のことをするどころか、予習さえもちゃんと終わるかどうかというような生活でした。授業だけでは司法試験に受からないという話も聞いていましたし、他にも何かしなければいけないという意識はあったのですが、他のことをする余裕はありませんでした。ただ、この時期に作っていたノートや、調べたことなどを書き込んだ教科書・ケースブック等を、司法試験直前期の復習で使うことができ、効率よく復習できた点は、この時期に一生懸命授業に取り組んでいてよかったと思うところです。

 おそらく、皆さんの中にも、予習が大変で、他のことをやろうと思っても、手を出せず、不安を感じている方もいると思いますが、足りないところは、L3になってから補う時間があると思うので、この時期は余計な不安を感じることなく、目の前の授業に集中して、授業でやったところが司法試験に出れば、安心して答案を書けるという状態にまでしておく方がいいのではないかと思います。ただ、もし時間が作れるならば、いずれ判例百選の知識が必要になるので、少しの空いた時間などに、授業で扱わないところを見ておけばよいと思います。

○L3
 L3になってからですが、自分で論文を書く経験が足りないという意識があり、何かをしたいと思っていたところ、いくつか勉強会のお誘いを頂き、その結果、週に4〜5回も勉強会に参加することになりました。その勉強会では、各自で前もって問題を解いてきて、それを持ち寄って、解説のわからないところやお互いの文章の良し悪しを色々言い合うということを、毎回時間を決めてしていました。今になってみると、この勉強会がいいペースメーカーになっていたと思います。

 さらに、私の場合、前期は田子ゼミを履修していて、毎週起案をしていましたし、また、後期は弁護士の長尾先生の自主的な勉強会で公法の勉強もしていましたので、それらも合わせると、5月から翌2月くらいまでの間は、およそ1日1本のペースで論文を書いていたことになります。

 勉強会をしていてよかったと思うことは、やはり論文を書き慣れることができたということです。具体的に言うと、一般に、論文の書き方は、「問題を提起→規範の定立→あてはめ→結論」といわれますが、論文の書き方を突き詰めたおかげで、これをさらに分解すると、「問題提起→規範定立→規範へのあてはめに使えそうな事実を問題文から抽出→その事実を評価→規範にその事実をあてはめ→結論」ということであると理解できました。

 そして、「悩みを見せる答案が良い」とか、「自分の結論にとって消極的な事実にも配慮しなければならない」という解説なども参考にして、「まず、問題文中の自分の結論にとって消極的な事実を挙げて→これを評価し→『本件では〜のようにも思える』と反対の結論に達する可能性も示した上で→『しかし、〜だけでは〜とは言い切れない』とか『必ずしも〜いう訳でもない』などと、その反対の結論に達する過程の弱いところを攻撃し→『一方で、本件では〜という事実がある』と自分の結論に積極的な事実を挙げ→これを評価し→さらに他にも積極的な事実があれば、『加えて、〜という事実もあり、これは〜といえる』などと、どんどん挙げて畳み掛け→自分の結論を示す」という自分の論文の形のようなものもなんとなく出来上がりました。

 また、問題文を読むときに、答案の中でそれぞれの事実をこういう風に使おうと考えながら読むことができるようにもなりました。そんな訳で、論文の数をこなしたことはいい経験だったと思っています。ちなみに、全ての論点について、先程のように「悩みを見せる」必要はありません。濃淡を付けることも必要ですし、重要だと思う論点だけでよいと思います。ただ、自分にとって消極的な事実があるのなら、それは潰しておいた方が無難かもしれません。

 勉強会をしていたことのメリットのもう1つは、自分の答案を人に見てもらったことです。もちろん、自分で読み直しても、ここが悪いとか、ここは書き直した方がいいとか思うところはありますが、自分で納得してしまっている部分はなかなか直すことができないので、人に読んでもらって、ここは違うとか少し分かりにくいなどと人から言ってもらうのはすごく貴重な経験だと思います。私の場合は、勉強会を週に4〜5回やっていたので、全部で10〜11人の方たちに答案を見てもらうことができ、いい経験だったと思います。

 また、逆に、人の文章を読むことも、とてもいい勉強だと思います。私は、純粋未修でL1の頃は何をやっていいか分かりませんでしたし、もちろん論文の書き方も分からないという状態でした。最初に始めたことは、できる人の文章を少し真似てみるということでした。そのうちに、段々慣れてきて、それなりの論文を書けるようになりましたし、L3の間も人の文章を読んで、いい論証や言い回し等があればそれを真似するという形で書いていくうちに、それが段々と自分のものになっていったと思います。そういう意味では、できる人の真似をするということは、一番手っ取り早い論文上達法かもしれません。

○教材について
 昨年のこの会では、私は学生の立場でしたが、そのときに一番聞きたかったことの一つに、役に立った教材はどれかということがありました。そこで、ちょうどその答えにもなりますので、私たちが勉強会で使っていた教材についてお話したいと思います。

 まず、公法系については、『事例研究 憲法』(日本評論社)と『事例研究 行政法』(日本評論社)を使っていました。ただ、これをやれば受かるということではありません。事例ごとに解説者の違うオムニバス形式ですし、正直、解説に当たりはずれがあると思います。ですから、自分一人で考えて、解答を読んで終わりという形で効果が上がるかどうかはよくわかりませんが、扱われている事例もそれなりのものでしたので、勉強会の教材としてはよかったと思います。

 刑事系については、『法学教室』(有斐閣)の「事例で学ぶ刑法」という全20回くらいの連載がありまして、これを週1回のペースでやっていました。これは、かなり複雑で、考えさせられる、処理に困るという問題が多いです。でも、今年の司法試験の刑法の問題も、難しいというか、処理に困る問題が出ましたが、それでも慌てることなく、なんとか処理できたのは、難しい問題を解いていた経験が生きたからだと思います。ただ、この「事例で学ぶ刑法」の解説は少し分かりにくいので、読むと難しいと感じる方もいると思いますが、私達もよく分からない部分が多かったですし、解説を読んで分からないからといって悩む必要はないと思います。また、各回の解説の最後に各問題に対する出題者の考え・処理方法が載っていますが、これは模範解答ではありませんし、おそらく自分で考えたものとは違う処理の仕方が書いてあると思いますので、何故こうなるのかを考えながら、その該当部分の解説を読むと理解が深まることがありました。

 次に、民法と民訴と刑訴については、基本的には旧司法試験の過去問をやっていました。今ですと、『事例研究 民事法』(日本評論社)も出ていますので、私は一部しかやっていませんが、これも勉強会の教材としてはいいと思います。

 あと、これはみなさんが入手できるかわかりませんが、私のL1の頃に、萩法会の前身で、サポートアワーというものがあり、そのサポートアワー向けに作られた問題とその解説を譲り受けている人がいまして、勉強会でそれを用いて1時間タイムトライアル的に解くということもやりました。

 商法についても、基本的には旧司法試験の問題をやっていましたが、あとは、京都大学から出ている『会社法事例演習教材』(有斐閣)を使いました。今年の新司法試験の問題は、株主総会の賛成、反対の数を数えるとか、出題意図がつかめない問題が出ましたので、この本が直接的に役に立ったのかと聞かれると疑問があるのですが、かなり細かいところまで扱っているので、択一対策という意味でも、勉強した価値はあったと思います。

 それと、新司法試験の過去問については、ちょうど今の時期(L3秋〜年末)に、過去3年分について勉強会で取り上げました。それから、教材以外の基本書等についてですが、民訴以外は、内田先生の『民法』(東京大学出版会)や西田先生の『刑法』(弘文堂)など、ほとんど授業で使っていたものをそのまま使いました。民訴は、新堂先生から伊藤先生の教科書に乗り換えました。また、基本的には薄い本を中心に勉強して、適宜わからないところや足りないところを厚い本を読んで補っていくという方法をとっていました。

○直前期
 直前期の話ですが、私の場合、択一、論文とも本番を意識して本番と同じようにやろうと考えて、例えば刑事系の論文ですと、刑法と刑訴の問題を各1問用意して、4時間通しで解くということをしました。択一の場合ですと、択一のマークシートを刷ってきて、マークする時間も含めて、自分が90分、150分でどれくらい解答できるか時間を計ってしていました。もちろん模試も受けますが、それだけでは準備として足りないと思ったのです。そうしたところ、私の場合、択一の民法と刑法に時間がかかり、一方で、民訴や刑訴では時間があれば解けるはずの問題を落としていることに気づいたので、逆に民訴や刑訴から解答し始めるようにし、本番もその方法ですることにしました。

 要するに、直前にやったのはリハーサル、本番に向けて体を慣れさせるということで、本番で使うペンを使い、時間帯も朝から寝坊をせずに、本番と同じような時間帯で勉強することを心がけていました。あとは、L2のときのノートや基本書を、適宜時間を作って見直していました。

 昨年度の合格者体験談のお話をした方は、4人だったのですが、その4人の方のお話を総合して考えると、だいたい年内に択一の勉強を終えて、そのあと、アウトプットの練習をして、4月以降は直前なのでインプットの時期にするという方法をとった人が多かったように思います。そう考えると、私の場合はそれとはだいぶ違うような気がします。それぞれ自分に合った方法があると思いますので、私の直前期の過ごし方が必ずしも参考になるかわかりませんが、いずれにしても体を本番に合わせるという意味で、試験本番に近い形でのリハーサルは、模試の他にもやっておいた方がいいと思います。

○未修者向けのアドバイス
 未修者の方へのアドバイスですが、まず択一をしっかりやってほしいということです。もちろん、足切りにならなければいいという考えの方もいると思いますが、それでも、今年は全国的にもうちのロースクール的にも1/3くらいが足切りされていますし、特にその中でも未修者の方には毎年厳しい結果が出ているという現実があります。ですから、択一をしっかりやってもらいたいのです。

 それで何をやるかですが、以前私がアドバイスされたのは、肢別本を全科目2回半やること(その「半」というのは1回目、2回目で間違えたところを重点的にやるということです。)と、百選全11冊及び最近5年分くらいの重判を読むということです。ですが、私が実際にやったのかというと、実はできませんでした。肢別本は1回だけ、それもぎりぎりになってやっと終わりました。というのは、L3の間は基本的に勉強会で論文の勉強を重点的にやっていたので、択一の勉強時間をとることができませんでした。

 その結果、やはり模試でも足切りラインギリギリで、直前期は本当に焦って、怖い思いをしたので、その失敗談からお話すると、もしL2の段階で時間があれば、どんどん百選を読めばいいと思いますし、また、L2の試験が終わった後は、速やかに択一対策を進めるのがいいと思います。択一は、やればやるほど結果が出やすいと思いますし、未修者の場合は直前まで伸びる可能性があります。極端なことを言えば、私の場合、試験当日の朝に1時間早く起きて、それまでしっかり勉強できていなかった部分を見ていたところ、そこが出たりしたので、本当に直前まで伸びました。ですので、ギリギリまで手を抜かずにやってもらいたいと思います。

 既修者の方でも、東京の大きい事務所に入りたい、外資系に行きたいという希望がある方にとっては、そういう事務所は合格発表よりも前に内定が出てしまうので、最終結果ではなく、択一の結果が選考材料になりますから、択一は大事です。既修者の方にも択一を一生懸命やってもらいたいと思います。

 余談ですが、ここで先程の択一の対策について、時間のない人のために裏技的なこともお話します。先程もお話したとおり、私は、百選11冊と最近5年分の重判を読むようにアドバイスされたものの、結局それはできませんでした。そこで、時間に追われ、百選のように各事件について事実関係から読むと苦痛だったので、いい方法なのかよく分かりませんが、判例六法を百選や重判に掲載されている旨の表示がある判例を中心に通読しました。

 その結果、司法試験が終わった後の6月くらいに、受験期に読めなかった民訴の百選を読んだところ、8割くらいの判例を知っていました。これは、おそらく判例六法や択一対策をやっていく中で勉強していたということだと思いますので、それはそれでよかったと思います。

 また、未修者の方へのもう一つのお話ですが、それは憲法の統治の分野についてです。私たちの中で、今年の司法試験では出るかもしれないと噂していたのですが、今年は結局出なかったので、もしかすると来年あたり出るかもしれません。未修者ですと、統治の論文を書いた経験があまりないと思いますし、私自身もほとんど書いたことがありませんでした。それがとても不安だったので、友人(弁護士)に相談したところ、『スタンダード100』(早稲田経営出版)のような問題集で、統治の部分の問題を読んで、実際に文章は書かないとしても、自分である程度考えてから、解答なり解説なりを読んでおけば、気休めかもしれないが、本番当日にパニックになるようなことだけは防げるのではないかと言われたので、実際に直前の一週間前に、時間を見つけてその方法で勉強しました。本番でパニックになることは怖いので、不安のある人はそのような対策をやってみればよいのではないかと思います。もちろん、時間があるのなら、実際に論文を書くことが何よりの対策だと思います。

 最後に、くどいようですが、もう一度言います。未修者の方には、択一をしっかりやって欲しいと思います。もちろん、自分の書いた答案が誰の目にも触れることなく、捨てられてしまうのは悲しいことですが、もし仮に9月の段階で受からなかったとしても、自分の書いた論文を実際の司法試験委員に採点してもらう機会というのは他にないので、その後のための貴重な参考資料になると思います。

 それぞれの受験者が全く違うことを言うと思いますが、私の個人的な採点の感想を言いますと、民事系に関しては、自分が思っていたよりもかなり点数が付きました。逆に、公法に関しては、自分ではかなりの手応えがありましたが、驚くほど点数が出ませんでした。そういった感覚のずれ、手応えがあったのにもかかわらず、点数が伸びないということもありますので、実際に司法試験委員に採点してもらうのは貴重な機会です。

 例えば、私の場合、もし仮に今年ダメだったとしたら、来年に向けての対策は、まず公法を改善する方向でやっていくことになると思いますし、その方法として採点者とのズレを埋めるために、上位合格者の答案を見て意識的に自分の論文を改善することもできます。足切りになった人はそれができません。そういった意味でも、採点してもらうというのは大変貴重な機会なので、足切りだけは避けるように頑張ってもらいたいと思います。

 私の話は以上です。頑張って下さい。ありがとうございました。

◆編集後記

 今回は新司法試験の合格体験談・第5弾をお送りしました。掲載にご快諾いただいた甘利さんに、心から御礼申し上げます。

 これまで5回にわたって合格体験談を連載してきましたが、多くの方の共通のコメントである「最後まで諦めない」ということがとても印象に残りました。修了生の皆さんは、新司法試験に向けて大変な日々が続くと思いますが、最後まで諦めずに頑張ってほしいと思います。

(杉江記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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