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東北大学法科大学院メールマガジン

第45号 06/30/2009

◇オープン・キャンパス及び入試説明会行われる

 去る6月27日東北大学法科大学院片平キャンパスにて、オープンキャンパス及び平成22(2010)年度東北大学法科大学院入試説明会が実施されました。当日は70名以上の来場者を迎え、東北大学法科大学院の概要、模擬講義、入試についての説明と質疑応答などが行われました。また、希望者には施設見学も行われるなど、盛会のうちにプログラムを終了することができました。ご来場いただいた皆様に、心から御礼申し上げます。
 平成22(2010)年度の募集要項は、7月上旬に発行予定ですので、もう少しお待ちください。

◇平成22(2010)年度 法科大学院入学者選抜について

 平成22(2010)年度の入学者選抜から、下記のとおり、募集定員が変更となりますので、ご注意ください。

【募集定員】80名

内訳2年間での修了を希望する者(法学既修者)55名程度

3年間での修了を希望する者(法学未修者)25名程度

 7月上旬に、平成22(2010)年度の学生募集要項の配布を開始する予定ですので、詳細はそちらをご確認ください。

◇連続講演会開催のお知らせ

 東北大学法科大学院では、これから夏にかけて、修了生・在学生・教職員を対象に連続講演会を企画しています。
 第1回は、6月18日島田仁郎元最高裁判所長官にお越し頂き「裁判員制度」についてご講演を頂きました。たくさんの方のご来場ありがとうございました。
 第2回及び第3回については下記のとおり開催します。皆様ぜひご来場下さい。

第2回 7月4日(土) 13:15〜15:00
「企業法務弁護士の実際」
 講師:森・濱田松本法律事務所パートナー弁護士・本学非常勤講師 藤田浩弁護士
「東京における就職活動について」
 講師:新62期司法修習生・本学2008年卒業生 安藤瑠生子さん
 場所:片平キャンパス法科大学院棟第2講義室
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/gaiyou/access.html

第3回 7月22日(水) 10:30〜12:00
「近時の消費者問題について(仮題)」
 講師:鎌田健司弁護士
 場所:片平キャンパスさくらホール
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/gaiyou/access.html

連続講演会の第4回については、追ってご案内致します。

◇就職支援サイト「ジュリナビ」のお知らせ

 東北大学法科大学院は、本年度より、法科大学院生・修了生を対象とした就職支援サイトの「ジュリナビ」の参加校となりました。
 「ジュリナビ」は、法曹およびその他の法律専門職として就職を希望する法科大学院生・修了生に特化して、就職活動やキャリアプランニングを支援するためのウェブサイトです。法律事務所・一般企業・官公庁などからの求人情報や、就職活動支援情報、イベント情報などが掲載されています。
 本学も参加校となったことにより、当サイトへの登録手続が簡単になりました。登録及び利用は全て無料ですので、法科大学院の在学生・修了生で利用を希望される方はジュリナビホームページから会員登録を行ってください。(本学では、エントリーIDおよびパスワードは交付していません。)

 法科大学院生対象就職支援サイト「ジュリナビ」ホームページ
  http://www.jurinavi.com/

◇教員エッセイ

 今回は、実務刑事法を担当している岡本勝教授のエッセイをお送り致します。

我が畏敬する法学者たち ― 荘子邦雄先生と広中俊雄先生 ―

 「我が畏敬する法学者たち」の題のもとに、私の勝手な思いを綴らせていただこうと思う。

 今年の四月一日に、私は、ほぼ二十年間詠み続けてきた短歌の中から四百六十首を自選してまとめた第一歌集『蠍の火』を上梓した。私は以前、北原白秋‐宮柊二‐島田修二と続く白秋系の短歌結社「青藍」及び「草木」に属していたが、五年前に、敬慕する師島田修二先生の急逝に遭ったため(理由はそれだけではなく、結社の内情によるところが大きいが)、それまでに築いてきた同人の地位を失ってでも「草木」を退会するという苦渋にみちた決断をし、窪田空穂系の結社「まひる野」にピッカピカの一年生として入会した。幸いにも、現在は、橋本喜典、篠弘、大下一真、島田修三各氏の率いる「まひる野」において歌作を続けている。そして今般、前記歌集を「まひる野叢書」二六一篇として世に問うことができた。

 歌集『蠍の火』の中身は、ひとりの人間である私の、二十年来の私生活と内面の世界を吐露したものであるので、正直言って、あまり仕事上の知り合いには見せたくない。ただ、歌集の中の歌に頻繁に登場する二人の恩師は別である。そのお二人というのが、私の刑法の恩師である荘子邦雄東北大学名誉教授と、法思想・法学方法論などでご指導を賜った第二の恩師広中俊雄東北大学名誉教授である。荘子先生には、法学部三年のときに刑法演習に参加して以来、公私にわたり様々のご薫陶を受けた。荘子先生は、いわば私の人生全般にわたる第一の導きの星である。また、広中先生には、学部四年から助手二年目の秋まで、民法演習において、K・ラレンツの「法学方法論」やB・リュッテルスの「限界なき解釈」の講読を通して法律学一般についてご指導を賜った。いわば私の法律学的感覚や思想の導きの星・第二のポラリスである。いずれも、夜空高く光り輝く巨星であると思う。そして、敬愛してやまないこの二人の師に出会えたことを、至福と感じると同時に誇りに思う。前記歌集の中の一首、
  『荘子・広中ゼミ出身を誇りとしわが三十余年の学究はあり』

 私が片平キャンパスにあった荘子先生のだだっ広い研究室の扉を叩いたのは、刑法演習の小論文を書くためにベーリングの「刑法綱要」を拝借しに訪ねた大学三年の秋だったと思う。その頃の詳しいことはここでは書けないが、稚拙ではあれ、間接正犯を素材にして「正犯原理の模索」と題する二百字詰二百六十枚の論文を書くのに夢中だった頃である。この論文が一つのきっかけとなって、学部卒業と同時に荘子先生の刑法講座の助手にしていただいた。爾来四十年にならんとするが、先生は「学びて思う」ことの厳しさを身をもって示されてきた。「学びて思わざれば則ち罔し」、「思いて学ばざれば則ち殆うし」の論語の一節をよく引かれ、また、ゲーテの「ファウスト」をこよなく愛され、塔守リュンコイスの歌をよく愛誦された。それを詠った歌集の中の一首、
  『星を見つめ森に遊べる仔鹿みるリュンコイスの眼を持てと師は言ふ』
(「見つめる」はblickenであり、「みる」はsehenである。)

 荘子先生は、絶えず、単なる解釈論者にはなるなと仰せになり、哲学や歴史や文学など広く学ぶことの大切さを教えて下さった。また、剃刀ではなく鉈になれともおっしゃった。私は先生の言を常に肝に銘じて、不十分ながら自らを矯正してきたような気がする。絵画などに目を開かせて下さったのも荘子先生である。その意味において、荘子先生は学問上の師を超えた存在であると言っても過言ではない。刑法学においては、体系書「刑法総論(旧版及び新版)」はもとより、「犯罪論の基本思想」、「近代刑法思想史序説」、「近代刑法思想史研究」など、重厚で格調が高く、学問の香りに溢れたご著書をものされ、私は遠くからその後ろ姿を追いかけてきた。そして、ご退官後は、法律学を超えて、「和辻哲郎の実像」を著され、現在は、「戦争と平和」をテーマとする書物の執筆に情熱を注がれている。その御姿に接するとき、真の学者は、広く深い精神世界と、美しく豊かな人間性と、真理に対する敬虔な思いと、全ての存在に対する謙虚さを併せ持つ人間でなければならないと、改めて強く思うのである。

 ところで、私が広中先生の民法ゼミに入ったのは学部四年の五月であった。すでにゼミは始まっていた。遅れてゼミに入った訳は、荘子教授室を訪れた学部四年の五月に、荘子先生から、「君は何のゼミに入ったか。広中君のゼミには入ったか」と尋ねられたことによる。素面のときは極めてシャイで、はっきりとは物が言えない荘子先生の、「広中君のゼミには入ったか」との疑問文が、「広中君のゼミには絶対に入れ」との命令文と同義であることを、私はすでに知っていたので、すぐさま広中先生の研究室を訪ねて、無理でもゼミの入れてもらおうと、ゼミ開始直前に研究室から出てくる広中先生を捕まえて(そのときまで広中先生のお顔を私は知らなかった)、ゼミに出させて欲しいと懇請した。まさに「盲、蛇に怖じず」であった。先生は優しい口調で、「それでは、これからゼミがあるのでついて来なさい」とおっしゃり、僕は「あ、これでゼミに出られる」と半ばルンルン気分でついて行ったが、ゼミが始まり開口一番、先生は僕に対して、「君は一年間ゼミを続ける意志はあるのか」と、もの静かな口調で詰問された。僕は、ちゃらんぽらんな第一印象を与えてしまったから仕方ないと思いながら、静かに「はい」とだけ答えた。それから二年半の間、広中ゼミ(学部・大学院合同)に在籍したが、しばしば先生の鬼神のような学問的厳しさを目の当りにする羽目となった。精一杯努力してもドイツ語があまり精確には読めないだけで、研究者生命を否定されかねないような叱られ方をしたり、ドイツ民法の条文を調べるときに日本語訳にしか当たってこなかったことで怒鳴られたりした先輩や同輩を少なからず見た。しかし、何故か僕は一度も叱られた記憶がない。ただ、あるとき、先生から、「君の質問は真綿で首を絞めるようだね」と言われて、自分の捻じ曲がった嫌な性格が見抜かれたかと思い、冷や汗をかいた覚えがある。広中ゼミは私にとって学問的刺激に溢れた、スリリングでとても楽しい時間であった。いつまでも其処で遊んでいたかった。教養部の民法の先生や、民法を初めとして商法、労働法、英米法、国際私法など様々の専門分野の助手や院生が多数参加しており、学生は森田寛二前東北大学教授と私の二人きりだった。広中先生や先輩たちに囲まれ、学問への情熱がかき立てられる、ものすごく魅力的なゼミであったと思う。ゼミ生たちは、広中先生に心酔・傾倒する自分たちの心理を、「ヒロナカイズム」と称していた。僕は「イズム」には陥るまいと努めたが、無駄だったようだ。

 そのゼミを助手二年目の中途でやめたのは、またもや恩師荘子先生の決定的な一言のためである。荘子先生は、私が研究室を訪ねたときに、「君はまだ広中君のゼミに出ているのか」とぼそっと言われたのである。疑問文の体裁をとってはいるが、それは、「広中君のゼミにいつまで出てるんだ。もういい加減にしろ」との強烈な至上命令であると私には思われた。「あ、先生がヤキモチをやいている」と生意気な僕は感じて、半分嬉しくもあり、また半分は、自分にとって唯一の師であるべき荘子先生を嫌な気持ちにさせるようなことがあっては、侠気を信条とする自分の男が廃ると反省し、即刻広中ゼミをやめることを決意した。そして、やめざるを得ない状況に自らを追い込むために、それまで欠席したことのなかったゼミを、二回無断欠席した。そうしたら、広中先生の愛弟子で、そのとき博士課程にいらした先輩の小川保弘さん(のち新潟大学教授、故人)が、心配して僕の助手室にいらして、「ゼミは大変だろうけれど、途中でやめたりすると広中先生が烈火のごとく怒るから、ゼミに出てきた方がいい」と忠告して下さった。心配させてしまったことを申し訳なく思うと同時に、小川さんの優しさが心に沁みた。だが、もう後戻りは出来ないと観念し、意を決して、先生の研究室に、「助手論文の準備に集中したいので、ゼミをやめさせていただきたいと思います」とご挨拶にあがった。広中先生は、笑顔で、「君は助手論文に取り組むのが早いね」とおっしゃっただけで、ゼミをやめることを快諾して下さった。そこで僕は、広中先生に二度惚れしたのである。

 「警備公安警察の研究」などの具体的なご業績を挙げるまでもなく、広中先生の学問的世界はとてつもなく広く深い。そして、私をして広中先生の学問に惚れさせる要因は、透徹した綜合的な思索と、学問的法律学的センスの素晴らしさと、その背後にある高潔で美しい人間性であろう。あるとき、自ら国立国会図書館の書庫に潜り古典的文献資料の発掘に情熱を傾けてきた信山社社長渡辺左近氏が、広中先生編著「日本民法典資料集成第一巻」における先生のお仕事に実際に触れ、広中先生の学問的誠実さと、限りなく完璧さを追究する実証性に、驚嘆し舌を巻いておられたことが記憶にあたらしい。また、数年前に仙台で、「研究者・九条の会」が東北大学法学研究科吉田正志教授などのご尽力で立ち上げられたときに、広中先生は「戦争放棄の思想」と題する講演をなさった。その会場は溢れんばかりの聴衆で埋まり、その中には、小田中聰樹名誉教授や齊藤豊治教授のお顔もあった。そのときのご講演は、馳せ参じたわれわれの期待を裏切らない素晴らしい内容であったと思う。齊藤教授も、広中先生の「凄さ」に感動・脱帽しておられた。そのときに詠んだ歌三首、
  『「人間の尊厳」こそが永遠の平和の理念と広中は説く』
  『原爆症を病む膝関節かばひつつ壇上に立ち非戦説きたまふ』
  『広中は皆実に修二は江田島に体験したのか原爆の夏』

 海軍兵学校時代に広島市江田島で原爆を体験した島田修二は、三島由紀夫の自裁に接して、『自決せし人を思へど原爆の赤き雲見しかの日忘れず』と詠んだ。そこには修二の非戦の誓いが込められている。岡野弘彦の最近の歌集「バグダッド燃ゆ」も、非戦の祈りに満ち満ちている。学者にしろ歌人にしろ、「人間の尊厳」を大事な理念として抱え、他者に対して謙虚であり、平和を心から希求している、人間性豊かな人が私は好きだ。

 法科大学院の学生諸兄にも、良き法曹になるためにはどのような「人間」であるべきかをつねに考えながら、自らを磨いて欲しいと願う昨今である。

◆編集後記

 今回は岡本先生のエッセイをお届けしました。岡本先生が学生だった頃のお二人の先生との出会いのお話でしたが、岡本先生のお人柄にも触れる内容でした。改めて、人との出会いを大事にしていきたいと感じました。

 また、今回はオープンキャンパス及び平成22(2010)年度東北大学法科大学院入試説明会の模様をお伝えしました。平成22(2010)年度の募集要項は,近々発行予定ですので,もう少しお待ちください。

(杉江記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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