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東北大学法科大学院メールマガジン

第25号 11/30/2007

◇「新司法試験合格者と語る会」の実施報告

 去る平成19年11月7日(水)午後,東北大学片平キャンパス・金研講堂において「新司法試験合格者と語る会」を行いました。本年3月に本法科大学院を卒業し,本年度の新司法試験に合格した4名の方々にご講演いただいたのち,在学生との間で活発な質疑応答が行われました。ご講演いただいた皆さんに心から御礼申し上げます。

◇新司法試験,合格体験談

 上記「新司法試験合格者と語る会」における講演の概要です。今回は1人目として,木下清午さんの合格体験談をご紹介いたします。講演概要の掲載にご快諾いただいた木下さんに心から御礼申し上げます。

 木下清午

 こんにちは。木下清午と申します。まず,簡単に自己紹介させていただきます。私は,平成13年に東北大学法学部に入学し,平成17年に卒業,同年東北大学法科大学院の既修者コースに入学し,平成19年に卒業,新司法試験を受験しました。
 今日は,私の経験をふまえて,私の法科大学院での勉強と新司法試験の受験勉強,そして,私が新司法試験を受験して感じたことをお話したいと思います。

1.法科大学院での勉強

 まず,法科大学院での勉強についてお話します。私は,大学時代から現行司法試験を目指して勉強をやっていたわけではなく,ロースクールに入学しようと思って勉強していました。大学3年生のころから,少し勉強をはじめていたのですが,本格的にロースクール入試の勉強を始めたのは,大学三年生の終わりころからです。しかし,そのころの勉強は,典型的な論点,つまり試験にでそうな論点について,ノートに書き写し,写経しながら,暗記して,それを答案でパッチワークにしてはきだすだけというような勉強をしていました。教材は主に予備校の問題集や論証集をつかっていました。基本書は,ほとんど読んでいませんでしたし,判例百選もあまり読んでいませんでした。

 そのような勉強をしていたので,自分で理解しているとは到底いえず,基本的なことも分かっていませんでした。そのため,法科大学院に入ってから,自分の理解の不足を痛感させられました。授業で指されてトンチンカンな答えを言って,恥ずかしい思いをしたことは何度もあります。はじめは,自分がちゃんと授業についていけるのかと,不安な思いで生活していました。

 そのころは勉強の方法についても,結構悩んでいました。しかし,悩んでいたところで,答えはでず,とにかく学校の勉強を一生懸命やろうと思いました。まず,学校の授業の予習をしっかりやるようにしました。予習の際には,基本書を読み,指定された参考文献を読み,判例がでてくる場合には,その判例の調査官解説を読み,判例の評釈をいくつか読むようにしました。課題でだされた問題について,自分で一応の答えを出し,授業でそれがあっているのかどうか,ちがっていたとすれば,なぜ違っているのかを確認するようにしました。基本的には,予習に力をいれていました。授業の中で,一応の結論を自分のなかでだすようにしました。もちろん,疑問に思った点や理解できなかった点は,授業の後,先生や友人にきいて解決するようにしていました。復習はテストの直前にざっと見直していたくらいでした。

 L2の間は,そのような勉強をやっていました。L3に入ってからも,基本的には,同じような勉強をしていましたが,発展科目については,予習にそこまで時間をかけず,なるべく授業をしっかり聞き,復習をしっかりするというスタンスでやっていました。
 L2の科目は新司法試験に直結する科目ですので,十分に時間をかけて,しっかりと勉強する必要があると思います。

 L3の科目についても,実務系の科目,たとえば,刑事裁判演習や刑事実務演習は新司法試験の勉強としても役にたつと思います。選択科目については,自分の受験する科目については,もちろんしっかりと勉強する必要がありますが,自分で選択しない科目については,自分に要求する水準をある程度下げてもいいのではないかと思います。もちろん,自分の受験しない,選択科目についてもしっかり勉強するに越したことはないですし,将来仕事をする際に役にたつと思います。そのあたりは,自分の勉強の進み具合や,使える時間と相談して決めればいいと思います。
 そのほか,エクスターンシップやローヤリング等は,裁判やその他の紛争解決手続きの具体的なイメージをつかむことができるので,新司法試験の勉強にも役に立つと思います。

2.新司法試験の受験勉強

 次に,新司法試験の受験勉強についてお話したいと思います。まず,択一と論文の勉強の割合ですが,択一が3割,論文が7割の割合で勉強していました。もちろん論文の勉強がそのまま択一の勉強になっている部分もあるので,択一プロパーの勉強が3割くらいということです。

 択一の勉強は,L2の後期から少しずつはじめました。はじめは,憲法民法刑法だけをやり,L2が終わって春休みあたりから,その他の科目もはじめました。
 基本的には,問題を解くということをやりました。憲民刑については,現行司法試験の過去問(年度別)を解きました。いまから思えば体系別の問題を解いたほうがよかったかなと思います。それ以外の科目については,市販の問題集を一冊やっていました。

 やりかたとしては,問題を解き,間違えた問題に付箋をはり,二回目以降は間違えた問題だけをやり,正解できるようになった問題の付箋をはずしていって,付箋がすべてなくなるまで,問題を解くというのを,三回くらいやりました。
 どうしても,間違えてしまう問題については,間違った原因を考え,例えば,条文や判例を知らなかったのであれば,それをノートに書いておきました。それをあとでパソコンで体系別にまとめ,試験の直前に見直しました。

 論文の勉強は,科目によって多少違いはありますが,基本的には,基本書を通読し,それから,問題を解くという勉強方法でした。
 基本書は,薄い基本書を短期間(2,3日〜一週間くらい)で読み通しました。何回も読んだわけではなく,とりあえず,一回通読しました。薄い基本書を通読することによって,各科目の全体像がみえるようになってきました。やはり,個々の論点も,他の論点と絡み合っていることがありますし,また,同じ事案において,複数の手段をとることが可能である場合に,どの手段が有利かといったことを考えたりする場合には,体系的な思考が必要になってきます。個々の論点を関連づけて勉強したり,いくつかの手続や法律構成を比較しながら勉強したりすることによってより理解が深まりますし,頭にも入りやすくなると思います。

 問題は現行の司法試験の過去問も多少やったのですが,学者の先生の書かれた演習書や,法学教室で連載している「演習」の問題をよくやっていました。
 問題を解くときには,基本的にはその場で自分で考えて問題を解くようにしました。覚えていることを吐き出すというよりは,その場で自分の頭で考えるようにしました。もちろん判例のいいまわしや,用語の定義等,最低限覚える必要のあることはあります(ちなみに,自分が完全に暗記しているものを除いて,覚える必要があると考えた定義や判例の言い回しを試験直前にカードにまとめたところ,選択科目を含む8科目で計60枚程度の枚数になりました。)。それを前提に,自分のもっている知識を駆使して,論理的に考え,説得的に論じるという練習をしました。

 そして,自分の解答と解説等をみくらべて,自分の知識が不足していたところ,自分がまちがって理解していたところを洗い出し,該当箇所を基本書等で確認し,必要であれば判例百選あるいは判例の原文を読み,それでもわからないことがあれば,論文等をさがして読むということをやっていました。
 その際にもあまり覚えようとはせず,自分の考え,思考過程を基本書の考え方や判例の考え方にあわせていくようにしました。結論が判例や通説と違った場合でも,自分の納得のいく結論,自分の立場からすれば論理的な結論であればその結論をとるようにしました。

 また,そのような問題を教材に,友人とゼミを組んで,議論をすることもよくやっていました。基本書等を読んでいるだけでは,なかなかその内容を自分のものにすることはできません。基本書等を読んで得た知識を自分の言葉で表現し,友人と議論をしているうちに,自分があやまって理解しているところや,理解が不十分であるところを発見することができます。そういったところをまた基本書等で確認するということを繰り返していました。

 答案練習も,L3の後期からは,週3回くらいはやっていました。友人と答案を見せ合い,お互いに批判しあうというやりかたでやっていました。
 答案練習はL2の後期から週1〜2回くらいでやっていましたが,本格的にやり始めたのは,L3の後期からです。

 以上が,私の新司法試験の受験勉強ですが,勉強のやりかたは,ひとによって違いがあると思います。大事なのは,自分の勉強のスタイルを確立し,それを信じてやり通すことだと思います。

3.新司法試験を受験して感じたこと

 第三に,新司法試験を受験して感じたことをお話したいと思います。択一の試験問題は,現行の司法試験と問われていることが違うと思います。基本的な,判例や条文の知識に加え,その場で考えさせるような問題,現行の司法試験の論文で聞かれていたような問題が含まれていたように思います。そのような問題は得意だったので,択一では結構点数をとることができました。
 他方,論文の問題は,現行の司法試験とは異なり,未知の問題をその場で考えさせるような問題ではなく,基本的な知識を前提としてしっかりと事実をひろってあてはめることが,要求されていたと思います。

 わたしは,学説の対立や,法律の解釈の争いといった理論的な問題に興味があり,そちらを重点的に勉強していました。そして,あてはめの練習をあまりやっていませんでした。そのため,本試験では,かなり戸惑いました。
 ただ,やはり,具体的な事案において法をどのように適用するかという問題,すなわち,あてはめの問題を抜きにして,妥当な法解釈ができるはずもありません。あてはめについて,もっと勉強する必要があると痛感しました。

 そのためには,判例を読む際に,ある法律要件につき,どのような事実を,どのように評価し,どのようにあてはめているかということに注意して読む必要があると思います。また,実務系の科目,刑事実務演習や模擬裁判等を履修し,勉強することもできると思います。
 結局はバランスの問題ということになりますが,基礎的な知識を正確に身につけたうえで,あてはめの練習もしっかりとやることが一番合格に近い方法ではないかと思います。

 さらに,長文の問題に慣れておく必要があると思いました。私は,勉強している時には,あまり長文の問題を解いていなかったので,本番では,時間配分をうまくすることができず,時間がたりなくなってしまいました。新司法試験の問題と同程度の分量の問題はなかなかないですが,すくなくとも,プレテスト,第一回,第二回の新司法試験の問題は時間をはかって解くということを必ずやった方がいいと思います。

 また,法科大学院の勉強と新司法試験が対応しているかについてですが,私は十分対応していると思います。さきほど述べたように,新司法試験は基本的な知識を前提に,しっかりと事実をひろって,あてはめをすることが求められています。法科大学院の授業の予習・復習をしっかりとすれば,基本的な知識を身につけることができると思います。もちろん,授業で取り扱うことのできる範囲は限られていますので,足りないところは自分で補う必要がありますが,法科大学院の授業をしっかりとやっていれば,十分合格に必要な力は身につくと思います。

 あてはめの練習については,法科大学院の必修の授業だけでは必ずしも十分ではないように思います。ただ,刑事実務演習や模擬裁判等の実務科目を選択して履修したり,自分たちで答案練習したりすることによって,対応することができると思います。

 以上が,私の法科大学院での勉強と新司法試験の受験勉強,そして,私が新司法試験を受験して感じたことです。

 最後に学校側にお願いがあります。それは,法科大学院を修了してから,新司法試験受験までの施設の利用についてです。できれば,希望する受験生全員が,自習室を利用できるようにしていただけたらと思います。やはり,試験の直前になって勉強する環境が変化したり,施設の利用時間が制約されたりすると,勉強に影響があると思います。
 もう一点,今回受験して,合格することができなかった修了生のフォローをお願いしたいと思います。その方法はいろいろなことが考えられると思います。例えば,演習室を利用可能にしたり,法務研究科の図書室の入室を可能にしたりしていただくことはできないでしょうか。法科大学院卒業後は,勉強会をする場所を確保したり,資料をあつめたりするのが困難になってしまいます。
 施設の都合や,管理の問題等があるとは思いますが,ご検討いただければ幸いです。

 これで私の話を終わらせていただきます。つたない話で恐縮ですが,少しでも何かのお役にたてればうれしく思います。ありがとうございました。

◆編集後記

 風も冷たくなり,雪もちらつく季節となりました。
 法科大学院入学試験は,去る11月24日(土)に第2次選考試験が行われました。今後は12月10日(月)に第2次選考合格者発表,12月16日(日)に第3次選考試験(面接試験)が実施され,最終合格者発表は12月25日(火)の予定となっています。

 本号より,新司法試験の合格体験談を逐次ご紹介したいと思います。今回,講演概要の掲載にご快諾いただいた木下さんに心から御礼申し上げます。

(平塚記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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