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東北大学法科大学院メールマガジン

第18号 06/15/2007

◇トピックス−春季大講演会「女性法曹の軌跡」(その2)

 前号に引き続き,去る5月25日(金)の春季大講演会(東北大学創立百周年記念事業)における講演概要を掲載いたします。

春季大講演会「女性法曹の軌跡」
 ―女性弁護士として私の心掛けること,目指すこと―
     東北大学法科大学院教授(実務家教員・弁護士) 藤田 紀子

○家庭内労働の評価−半分を超えられるか

 差別は,労働の場だけではなくて,家庭の中でもいっぱいあるわけですね。アンケート調査によれば,夫婦共稼ぎの家庭における家事の時間について,男性が14分でしたか?…ほとんど家事,育児,それだけではなくて老人介護も,これは女性のすることだということになっています。

 そういう家事,育児,老人介護というものの金銭的な評価は,離婚するときの財産分与という場面で出てくるわけですけれども,日本の民法では,離婚のときに財産分与が請求できるという規定にはなっているけれども,「どのくらい」という割合は書いてないのですね。それで,私は原則として二分の一を請求する,ということをやっていますけれども,なかなか男性裁判官は二分の一を認めてくれない。仮差押の申請で「この人は家庭の主婦でしょう,自分で収入がないのだから半分は無理です。三分の一なら認めましょう。」といわれたこともあるし,別の離婚調停で,夫から言葉による暴力を日常茶飯事的に言われて,財産分与と慰謝料請求を出しても「奥さん何の収入もないんでしょう,そしたら『誰のおかげで食ってるんだ』ということくらいは言われたってそれは我慢しなけりゃならないですから」といわれたこともあります。

 憲法や民法を知っている裁判官でさえ,収入のない妻が半分とはとんでもない,我慢して当たり前,慰謝料とは何事か,という意識があるのではないか。これは,男性の意識を変えるというよりは,どんどん女性裁判官が増えて,男性裁判官と同じくらいの数を占めて,それでやっと裁判官全体の意識が変わるのではないかと思ったことがあります。

 昭和55年の民法改正で,配偶者の相続分が二分の一に増えましたが,さらに私たち女性弁護士としては,共稼ぎの場合には,外で働いているほかに家庭内労働も行うという二重の寄与をしているのだから,本当は半分どころじゃなくて,共働き夫婦の場合で家事,育児も妻がしているなら,三分の二くらいは妻が主張できるはずだ,ということが新たな課題となっているわけです。

 それから,退職金−これは離婚するとき,仮に今退職したらいくらか,ということを計算して,妻も請求する権利があるということが認められるようになりました。米国では州法にもよりますけれども,婚姻中に取得した資格に基づいて高収入を得るようになった場合には,それも加味するというところもあります。日本はまだそこまではなかなか行っていませんが,それでも,夫名義のものは夫のもの,という意識からは,ずいぶん改善されたのではないか,というふうに思うわけです。

○不貞・DV

 それから,妻が夫の不貞について離婚調停の相談に行っても「大目に見てあげなさい」と説得されて聞き入れてもらえないとか,妻が不貞を働いた場合の離婚請求は認められやすいのに,逆に夫の不貞を妻が許せなくても,夫が反省している場合には,妻が説得されて「もう一回やり直したらどうですか」といわれるような場面が多いわけですね。そういうところにも,法文の解釈とは別に,実際の感覚的なところで不平等だと思うところがしばしばあります。

 また,家庭内暴力(DV)について,DV防止法が平成13年にできて,非常に厳しく裁判所も対応するようになにました。DVを振るう人というのは社会的に立派で「あの人が…」という先入観があるのと,それから妻自身「私が悪いのではないか」と,往々にして自分を責める。またDVには周期があって,暴力を振るって「ああ悪いことをしたな」と思うと何かプレゼントをして,それで改心したかなと思うとまた暴力を振るう,そういうところがある。そういうことで我慢している女性が多かったのですけれども,いろいろ啓蒙をしたり,離婚についての説明をしたり,多くは女性の弁護士が中心となってやっています。

 それから,とにかく子供をつれて夫の暴力から逃れたい,だけどそのための施設が十分でない,というようなときに,女性弁護士とかボランティアが中心となって,いわゆる「シェルター」というものを作って,そこで短期間,妻と子供を保護する,そういう見本もできていて,今はスピーディに保護できず泣き寝入りというのも少なくなってきているというふうに思われます。

○セクハラ・ストーカー

 それから,セクハラ・ストーカー,これもだいたい女性が被害者になっているわけですね。裁判もずっと取り組んできましたけれども,それとは別に,規制するような法律を作って欲しい,というような働きかけが実って,平成12年5月に,セクハラとかストーカー行為に対して規制する法律もできました。

 セクハラというのは「性的嫌がらせ」ということで,被害者は別に女性に限ったわけではないのですが,現実にはほとんど9割9分が,被害者は女性で,我慢して泣き寝入りしているのが非常に多い。このようなセクハラに対しては,慰謝料を請求できるとか,上司からの性的要求を断って辞めさせられるのは正当な理由がないから会社員としての地位に基づいて賃金の支払いを争うこともできる,というような訴訟も増えてきていると思われます。

 これは実際に事件が増えている,というわけではなくて,被害者の連絡会というのもできているし,独りで相手に対して訴えを起こすのは非常に勇気がいるけれども,それに対する支援会というのもできていて,例えば仙台で訴訟を起こしても,いろいろなところから応援団が来る,というような支援体制もだんだんできています。だから,泣き寝入りをするのではなくて,声を大にして,訴訟を起こすということもできているのは,いい方向であると思うわけです。

○婚外子の問題

 それから,婚外子の問題があります。非嫡出子は嫡出子の半分しか相続できない。自分は生まれたくて非嫡出子に生まれたわけではないのに,嫡出子の半分しか相続できないというのは憲法違反ではないか−これは最高裁ではなく地裁レベルで「憲法違反だ」というような判断がいっぱい出ていますけれども,この次にたぶん法律改正されるであろう,ということで,非嫡出子を差別することは違憲である,ということを裁判で言い続けてきたことの成果である,と思うわけです。

 また,戸籍とか住民票に,嫡出子の場合は長男,長女と書かれるが,未婚の子供の場合は男,女としか書かれない,それで住民票から嫡出子か非嫡出子かが明らかに分かってしまう,ということがあります。これは実際の取扱いとして,そういう区別をなくしている自治体もずいぶん多くなっているので,徐々に婚外子に対する差別というのもなくなってきているというふうに思われます。

○婚姻と男女差別

 それから,待婚期間というのが女性にはあります。女性が離婚届を出して,それから出産したとき,離婚した夫の子供か,新しく一緒になった人の子供か分からないから6ヶ月は待たなければならない,というようなことなのですが,これは非常にナンセンスな条文ではないか,と言われているわけです。子供のDNA鑑定をするとか,妊娠していないという証明をすればすぐ再婚できるようにするとか,いろいろ議論があって,女性だけ6ヶ月の待婚期間があるというのは,これは違憲とまでは行かなくても時勢に会わないのではないか。審議会で出されている改正案では3ヶ月に縮めようという,非常に中途半端だと思うのですが,少なくとも6ヶ月待たせるということは合理的根拠がなくて,行く行くは撤廃されることになるかも知れないという中で,改正案は3ヶ月になっているということです。

 また,婚姻年齢が,今は男子18歳,女子16歳で2歳差があるわけですね。これも合理的・科学的根拠がないし,かえって,女性の方が2歳早いということで,だから女性は高等教育を受けなくても良いのだ,というように悪用されるおそれがあるので,これも差をなくそうということで,今度の改正案はそれが盛り込まれているわけですね。

 今の改正案が成立しないことの大きなネックになっているのは,夫婦別姓ですね。学者とか裁判官の中には,もとの苗字で論文を書いたり裁判を出したりというような実績が,苗字を変えることによって,学者なり裁判官としての仕事の一貫性が途中で切れることになるよりは,夫婦別姓を選択した場合はそれでいいのではないか。特に女性の場合,9割が結婚して夫の苗字に変わるので,夫婦別姓は女性からの切実な願いであって,私たちもいろいろ意見書を出したり,アンケート結果を集約して,働きかけたりしているわけですけれども,なかなかこれが実らない,というような状況になっています。

○交通事故をめぐる論点

 それから,交通事故紛争処理センターの委員をしていたことがあるのですが,賃金格差を前提とした遺失利益−例えば,3歳児の乗っている保育園の送迎バスが交通事故に遭って中の園児が死んでしまったときに,そもそも賃金格差があるのがおかしいわけですけれども,それをもとにして3歳のときから男女差ができるのはおかしい。また,一家の柱が死んだ場合と,主婦が死んだ場合とで慰謝料に差があるのもおかしいということで,他の女性何人かと論文を載せたことがあります。これも,「女性であるから」差別されている,ということに非常に敏感なのではないか,というふうに思うわけですね。

 逆に,醜状痕についての慰謝料は女性の方が高いわけですね。これは,「女性は顔だ」という意識があって,外貌に醜状痕が残っていると逆に女性の慰謝料が高いわけですけれども,喜んでばかりいられる話ではなくて,男性でも,俳優なら醜状痕は高く認められるべきである。これは男性か女性かということではなくて,顔を表に出す仕事かどうかという,職種の違いによるべきではないか,という疑問を投げかける論文を発表したことがあります。

○終わりに−女性法曹として

 女性であるがために弁護士として主張できるということは,女性であるがために差別に敏感で,差別を受けるということに対して痛みが分かるから主張もできる,というふうな気持ちでおります。女性が今現実に差別を受けているという中で,できるだけ女性が損をしないように心掛けてきたつもりです。私は裁判官希望だったのが,家庭との両立を考えて弁護士になったわけですけれども,非常にやりがいのある仕事をしてきたつもりですし,これから女性で法曹になろうという方には,是非,まだまだ現実は女性に対する差別があるのだ,という意識を持って,その差別を少しでも是正するというような仕事に取り組んでいただきたい,というふうに思うわけです。

 どうも今日はご清聴ありがとうございました。(拍手)

◆編集後記

 前期授業が始まってから2ヶ月が経ちました。学生用教育支援システムのお知らせ欄やカリキュラム情報は相変わらず日々刻々更新されていますが,気がつけば,ちょうど中間点に差し掛かったところなのですね。月日の経つのは早いものです。

 例年ですと,そろそろ仙台でのオープン・キャンパス,東京でのミニ・オープン・キャンパスのお知らせの時期。昨年は7・8月の開催でしたが,今年は秋の開催を予定しております。詳細が決まりましたら掲載しますので,今しばらくお待ちください。

(平塚記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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