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2011年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

問題

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法 PDF
出題趣旨 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:小論文試験の問題及び出題趣旨

第3次選考:面接試験
問題 既修者用未修者用 PDF
出題趣旨 既修者用未修者用

出題趣旨

<公法(憲法)>

 経済的自由に関する基本的理解を問う設問である。具体的には設問中の第2段落の第1文と第2文という2つの問いに、どれだけきちんと回答できているかを評価した。どの教科書にも説明されている基本的な事柄について、たんに教科書的記述を丸暗記するのではなく自分なりの着実な理解を得ていて、自分の言葉でその理解を明晰に文章表現できれば、合格答案になるはずである。


<公法(行政法)>

 本問は、いわゆる公害防止協定の法的拘束力について問うものである。当事者間の合意によって協定が締結されているのであるから、契約としての法的拘束力が認められるとも考えられるが、法律に基づかない協定によって事業者に対する義務付けを行うことは、「法律による行政の原理」に反するのではないかが問題となる。したがって、法的拘束力肯定説、否定説のいずれをとる場合にも、「法律による行政の原理」との関係を十分に論じる必要がある。また、法的拘束力肯定説をとる場合、拘束力が認められるための条件(協定による義務の内容が具体的に特定されていること、任意の合意によるものであること、当該義務について定める法令の趣旨および比例原則・平等原則に反しないこと等)および履行強制の方法(民事訴訟または公法上の当事者訴訟等)についても、論じることが望ましい。
 なお、判例として、最判平成21年7月10日判時2058号53頁がある。本問は、この判例に関する知識を問う趣旨ではないが、この判例の理解を踏まえることにより、より深い論述が可能になるであろう。


<民事法(民法)>

第1問
 本問は,責任ないし責任財産という切り口から,民法全体の理解を問うものである。
 Bの死亡前に用いられる制度・手段としては,物的担保・人的担保の設定が基本となる。具体的には,抵当権,質権,保証,連帯保証などが考えられる。物的担保は,B死亡後も優先弁済権を確保できる点にメリットがあるが,一般論としては担保とすべき財産がなければ利用できないなどのデメリットがある。人的担保は,主債務者が無資力となっても保証人に資力があれば債権回収が可能となるメリットがあるが,資力のある保証人がみつからなければそのメリットも生かせない。
 Bの死亡後に用いられる制度・手段としては,財産分離(民法941条)をあげる必要がある。財産分離制度を利用すれば,Aの債権回収はまず確実に実現できるが,手続が厳格で利用しづらいというデメリットがあるとされる。Cの相続放棄もAの債権回収に役立つが,これはCの協力がなければできない。
 責任ないし責任財産という観点から説明するなら,債務者の責任財産の一部に優先権を確保する(物的担保の設定)こと,および債務者以外の別の責任財産を確保する(人的担保の設定)ことが基本となる,ということである。財産分離や相続放棄は,被相続人と相続人の責任財産の融合(相続)による債務超過を防ぐ。相続前に,債務者(被相続人)以外の法主体に債務と資産を移転すること(Aの出資による法人の設立など)も考えられる。

第2問
小問1
 一般に,法律行為の無効は,誰でも主張することができる。
 これに対して錯誤無効は,表意者を保護するための制度であるから,基本的に表意者だけが無効を主張することができ,表意者以外の者(相手方など)による無効主張を認める必要はないと考えられている。
 法律行為の無効に関する以上のような基本的知識を問うのが本問の趣旨である。

小問2
 設問の見解は,かつての民法の立場である。すなわち,平成11年の改正前の民法840条は,「夫婦の一方が禁治産の宣告を受けたときは,他の一方は,その後見人となる。」と定めていた。
 しかしながら,民法843条が定めるとおり,高齢の夫婦の一方が成年後見開始の審判を受ける場合などを考えると,配偶者が当然に後見人になるというルールは必ずしも妥当な結果をもたらさないことから,現行法は,家庭裁判所が,個々の事案ごとに最も適任と認める者を後見人として選任できることとしている。
 以上のような経緯を踏まえ,条文を引用しつつ的確に論じることができるかを問うのが,本問の趣旨である。


<民事法(商法)>

第1問
 株主総会決議取消事由についての基礎的な理解を問う出題である。議決権行使が排除される場合(特定の株主からの自己株式取得や譲渡制限株式の取得承認の際の相手方),株主総会決議無効事由(たとえば一部の株主を有利に扱うような株主平等原則違反の決議),あるいは,取締役会決議についての瑕疵(たとえば代表取締役の解任)について問うているわけではないのに,それらについて回答しているようでは,問題文を読んでいないと評価される。また,具体例を挙げることを要求しているのだから,特別利害関係人の関与した不当決議が取消事由となっている趣旨を長々と説明しても無駄である。

第2問
 大会社のガバナンスについて会社法の基本的な理解を問う出題である。わざわざ「大会社の」と問題文に書かれているのにもかかわらず,内部統制システムの構築の必要性についての一般的な説明を書いているようでは,「仙台で雨が降っているのはなぜですか」という問いに対して「大阪で雨が降っているのは,前線が大阪付近にあるからです」と答えるようなものであり,そもそも日本語でのコミュニケーション能力が不十分であると推測され,法律家としての基礎的な素養を欠くものと評価される。

第3問
 種類株式の発行に伴う,既存株主との利害調整のメカニズムについての基礎的な理解ができているか否かを問う出題である。

第4問
 役員等の対第三者責任に関する,基礎的な判例法理に関わる理解を問う出題である。対第三者責任について問うているのに,役員等の利益相反取引の直接取引・間接取引の区別について説明をしたり,通常の債務不履行・不法行為の因果関係論における間接損害について説明をしたりしているような答案は,問題文を読む日本語能力に欠けるところがあるものと評価される。

第5問
 株式移転の基礎的なメカニズムと債権者に与える影響との基礎的な理解を問う出題である。「債権債務が完全親会社に全て移転するから」という答えは株式移転とは何かを理解していないことになる。「債権者が害されないから債権者異議手続が不要」という答えは,「雨が降っているのはなぜですか」という問いに「空から水が落ちているからです」と答えるのと同様のトートロジーであり,論理的思考ができないものと評価される。「条文がないから」という答えも同様。「株主が害されないから」という答えも,「雨が降っているのはなぜですか」という問いに対して「等圧線の幅が狭くなっているので雨が降っています」と答えるようなもの(等圧線の幅が狭ければ強風が吹く)であり,法律家としての基礎的な素養(あるいは日本語を使った会話能力)が決定的に欠けているものと評価される。


<民事法(民事訴訟法)>

 民事訴訟法220条の文書提出義務についての問題である。本問においては、貸出稟議書が第4項ニの自己専利用文書に該当するかどうかを問うている。民事訴訟法220条第4項の立法趣旨と沿革、基本的解釈及びその適用について理解しているかどうかを試すものである。リーディングケースとなった判例(最判平成11年11月12日民集53巻8号1787頁)が展開した解釈論が検討の対象となろう。本問の事例としては、最判平成12年12月14日民集54巻9号2709頁が参考となるが、株主代表訴訟が「特段の事情」に該当するかどうかが問題点であることを意識することが肝要である。


<刑事法(刑法)>

 本問は、簡単な事案を素材にして、問題となる行為を的確に捉えた上で、①窃盗罪と詐欺罪の区別の基準に関する正確な知識の有無、②窃盗罪・詐欺罪の構成要件に関する正確な知識の有無、③傷害罪の構成要件に関する正確な知識の有無、④共同正犯の成立要件に関する基礎的知識の有無を確認すると同時に、それらの知識を具体的事案に的確に適用することができるかを確認することを目的としたものである。


<刑事法(刑事訴訟法)>

 本問は、①捜査の端緒に関する理解度(警察官による対象者への呼びかけ、対象者を追跡した後の停止措置等の法的性質について、その定義を示した上で判定することができるか、また、上記活動に関する警察官職務執行法〔以下、「警職法」という。〕又は刑事訴訟法〔以下、「刑訴法」という。〕における根拠条文、強制処分の定義、及び任意処分の限界に関する判断基準を示した上で、一連の活動の適法・違法を判断することができるか)、及び②現行犯逮捕に関する理解度(現行犯逮捕の根拠条文を示し、その文言や趣旨から導かれる要件を挙げた上で、事案の中から法的に意味を持つ事実を抽出しながら、逮捕の適法・違法を判断することができるか)を確認することを目的とするものである。
 まず、警察官らがXに呼びかけ、逃走した同人を停止させる行為については、いわゆる不審事由に基づいて行われる職務質問のための停止(警職法2条1項)か、特定の犯罪の解明に向けられた捜査かを判定し、さらに、その際に行使された有形力について、(この時点で、現行犯逮捕の要件が充足されていない限り、)任意処分として行われるべき措置として許されるものであったか、行政警察活動又は捜査に関する適法性の判断基準に則して検討することが必要であろう。
 また、現行犯逮捕については、その要件を、条文の文言や趣旨に即して挙げることが求められる。刑訴法213条には、「現行犯人は逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」旨が規定され、無令状逮捕の対象となる現行犯人の意義は、212条各項に示されている。同条1項は、本来的な現行犯人を「現に犯罪を行い、又は行い終つた者」と定義していることから、現行犯逮捕の要件のうち、「犯行の終了と逮捕との時間的接着性」については、この文言から導くことは容易であるが、「犯罪の明白性」と「犯人の明白性」については、現行犯人を逮捕するのに事前の司法審査が要求されない理由に遡って説明することとなろう(さらに、217条を踏まえると、「逮捕の必要性」も、要件の一つと考えられる)。
 なお、逮捕者が、犯人が犯行を終えた瞬間を目撃していないことから、直ちに現行犯人(212条1項)に該当しないこととなり、いわゆる準現行犯人(同条2項)に該当するか否かが問題となるとはいえない。犯行を終えた瞬間を目撃していなくても、逮捕者が認識した、犯罪現場や被害者の身体・衣服の状況(生々しい負傷)及び相手方の挙動(殺気だった挙動)から、なお現行犯人に該当するといえる場合はあり得よう(最高裁昭和31年10月25日第1小法廷決定・刑集10巻10号1439頁参照。準現行犯人との区別を考える際には、同判例が、通報を受けて現場に急行した警察官により、犯行から3,40分経過した時点で逮捕された被疑者について、212条1項の現行犯人に該当する、と判断していることにも留意する必要がある)。
 もっとも、例えば、「犯人の明白性」を基礎付ける資料として、被害者や目撃者の供述を用いることには、要件判断の客観性担保という観点から議論がある。本件では、逮捕者であるK巡査部長が認識していた事実から、Xが現行犯人に該当するといえるか、上記の議論を踏まえた上で、それぞれの事実が要件判断において有する意味を考えながら慎重に検討する必要があろう。
 職務質問のため又は捜査の一環としての停止や現行犯逮捕などの活動には、基本的で重要な問題が含まれている。それぞれの活動について、条文の文言や趣旨に即して要件を挙げ、また、適法性の判断基準を示した上で、事実を丁寧に摘示しながら、その適法・違法について的確に判断できることが望まれる。

<面接(既修者)>

 「石に泳ぐ魚」事件を若干モディファイした事例を用いた設問である。①Aの代理人の立場で、Aのニーズを的確に把握し、かかるニーズを実現するのに適当と思われる法律論を提示することができるか、②小説家Bおよび出版社Dの立場からの反論を予想し、かかる反論に対して自らの法律論をディフェンドすることができるかという2点を中心に問答を行うことで、法律家として必要な事案把握能力、法的分析能力、複眼的な思考力、コミュニケーション能力を確認しようという趣旨である。


<面接(未修者)>

 本問題は、いわゆる「幼保一体化」の問題を架空の国の問題として提示し、機能に重なりのある二つの異なる制度を一元化することの適否と内容について、面接者との対話による議論を円滑に行いつつ、与えられた情報を分析し、自己の見解を形成して説得的に述べることができるかを問うものである。その際、制度の機能に着目するのみならずその趣旨・目的に遡って発想し、当該趣旨目的に沿った制度の具体的内容を想定すること、加えて、一方で事情の異なる様々な個人を念頭に置いて、関係する当事者らに与える影響等に配慮し、他方で制度運用の資源の制約等の現実問題にも相応の考慮を払うことができるか否かなどの観点から、受験者の法律実務家としての資質、適格性を評価することを意図している。

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