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2010年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

問題

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法 PDF
出題趣旨 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:小論文試験の問題及び出題趣旨

第3次選考:面接試験
問題 既修者用未修者用 PDF
出題趣旨 既修者用未修者用

出題趣旨

<公法(憲法)>

 本問は、未成年者の人権制限に関する問題である。一般には、未成年者は、参政権の制限など、人権保障に関して、成年者とは異なる取扱いを受けることがあると解されている。本問では、かかる理解を前提とした上で、参政権とは異なる選挙運動の自由の制限について、具体的事例に即して論じていくことが求められる。


<公法(行政法)>

 行政法上の一般法原則のひとつであり、裁判例においても一定の蓄積がある「信頼保護原則(信義則)」について、具体的事例に即して、法治主義(法律による行政の原理)との関係など、基本的な理解ができているかを問うもの。
 まず、設問@・Aに共通する事項として、「保護に値する信頼」とはどのようなものかを論じることが求められる。行政側の要因(公的な見解の表示がなされたか等)・私人側(相手側)の要因(信頼したことに責められるべき点がないか等)・法治主義との関係(信頼を保護するとした場合、法治主義に牴触することとならないか等)・保護の態様(行政処分の取消しまで認めるか、損害賠償に止めるか等)を基本的な考慮要素として挙げることができよう。本件は、許可の申請に際しての行政による情報提供の誤りが問題となっており、このような場面における行政の適正な教示義務をどの程度のものと考えるかという点も重要である。また、設問@とAとでは、保護の態様を異にしており、法治主義との関係では、@よりAの方が肯定されやすいといえる。


<民事法(民法)>

 第1問
 本問は、民法110条に定めるいわゆる権限踰越による表見代理の基礎的理解を問うものである。同条の文言からすれば、法定代理権も基本代理権に含まれてよい。しかし、同条の趣旨について、本人が、自らの意思によって代理権の存在を相手方に信じさせるような事情を作出した点に帰責性を認め、それゆえに表見代理の成立を肯定するものと理解するなら、法定代理権は、任意代理権と異なり、基本代理権とはならないとの見方が生ずる。
 設問は、以上を前提として、3つの例の違いに留意しつつ、基本代理権となるか(表見代理成立の可能性)を検討することを求めている。
 親権者については、包括的な代理権を有することから一般的には権限踰越の表見代理の問題とならず権限濫用の問題となること、保佐人については、特定の法律行為について代理権が付与された場合(民法876条の4)の表見代理の成否、夫婦については、民法761条を根拠に相互に法定代理権を認めるとしてもそのような状況が創出された原因は当該夫婦の意思であって制限行為能力者の法定代理と事情が異なること、などに注意する必要がある。

 第2問
  正解は次のとおり。
   小問1=5
   小問2=5
   小問3=3


<民事法(商法)>

 第1問
 募集株式の発行・株式の併合・自己株式取得に関する基本的な知識の有無を問うものである。

 第2問
 報酬規制の中でもストック・オプションをめぐる規制の適用についての基礎的な知識の有無を問うもの、および、取締役の責任(いわゆる名目的取締役)をめぐる基礎的な事例の理解を問うものである。後者は、表見代表取締役についての理解を問うものではない。

 第3問
 会社分割にともなうさまざまな基礎的な問題点を理解しているかどうかを問うものである。


<民事法(民事訴訟法)>

 主張責任がいかなる場面で問題となるか、また、その対象となる事実主張とは何か、さらに、主張責任の分配と証明責任の分配との異同について論じた後、その具体的事案における適用を問う問題である。とくに、弁論主義の第1原則の適用について、具体的に論じる必要がある。


<刑事法(刑法)>

 問1及び問2は、広義の共犯に関する諸問題を考える上で基本となる理論的知識の有無を確認することを目的としたものである。
 問3は、設問として示した簡単な事案を素材にして、問題となる行為を的確に捉えた上で、問1及び問2に関する知識を活用しながら、共同正犯の成否及び共犯関係の解消(共犯からの離脱)について、的確に処理することができるかを確認することを目的としたものである。
 なお、問3に関しては、名古屋高判平成14年8月29日判時1831号158頁を参照。


<刑事法(刑事訴訟法)>

 最高裁平成14年10月4日第1小法廷決定(刑集56巻8号507頁)の判断内容に関する基本的知識を有することを前提に、同決定と同様の事案を素材として、捜査機関が令状による捜索差押えを実施する場合の手続に関する理解度(問題の所在を的確に示した上で、根拠条文及びその趣旨を踏まえて、事例に即して議論を展開できるか)を確認することを目的として出題した。
 捜査機関が令状による捜索差押えを実施する場合、処分を受ける者に、捜索差押令状を提示(通信傍受法9条の見出しは、「呈示」ではなく、「提示」の語を用いているので、これに従う)しなければならない(222条1項・110条)。もっとも、110条には令状を提示すべき時期は明示されておらず、令状提示が要求される趣旨に照らして、令状をいつ提示すべきか、検討することとなる。
 この点、上記判例は、「捜索差押許可状の呈示は、手続の公正を担保するとともに、処分を受ける者の人権に配慮する趣旨に出たものであるから、令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきである」とした上で、「捜索差押許可状執行の動きを察知されれば、覚せい剤事犯の前科もある被疑者において、直ちに覚せい剤を洗面所に流すなど短時間のうちに差押対象物件を破棄隠匿するおそれがあったため、前記事情の下においては、警察官らが令状の執行に着手して入室した上その直後に呈示を行うことは、法意にもとるものではなく、捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないところであって、適法というべきである。」との判断を示している(令状の「事前」提示が原則という場合、何に先立って令状を提示すべきか、明らかにする必要があろう)。
 さらに、本件弁護人Dは、捜査機関は令状提示に先立ち、Xに対し来意を告げるべきだ、と主張している。
 捜索差押えを実施する捜査官が、その身分や目的を告げずに、突然住居に立ち入ろうとするならば、(回避できたはずの)家屋・家財の破壊をもたらすこととなる一方、不法な闖入を受けたと誤解した居住者から、無用の抵抗を受けたり、自宅などで寛ぎ、無防備な状態にある居住者に、不必要な恐怖や衝撃を与えたりすることとなる。したがって、明文の定めはないものの、捜査官において、立入りに先立ち、身分・目的を告知して、これらの事態を回避することが望ましい(来意告知の要請)。もっとも、この告知は、室内にいる者による抵抗や証拠隠滅の契機にもなり得るため、そのようなおそれが具体的に存在するならば、捜索差押えの実効性確保を優先させ、告知なしに処分に着手することもまた認められることとなろう。
 また、そのような場合には、立入り時の解錠や開扉につき、室内にいる者の協力を期待することは一般に困難である。この点、捜査機関は、捜索差押えに「必要な処分」を行う権限を有しており(222条1項・111条)、迅速な現場保全が求められる場合には、任意の解錠の機会を与えることなく、短時分で入室可能な措置を採ることも許されるであろう(本件のようにマスターキーで開錠すれば、無用の家屋・家財の破壊を避けることができる)。
 上記判例は、上述の事実関係の下では、「捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らがホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は、捜索差押えの実効性を確保するために必要であり、社会通念上相当な態様で行われていると認められるから、刑訴法222条1項、111条1項に基づく処分として許容される。」との判断を示している(本問の検討に当たり、マスターキーによる解錠が、111条1項の規定する「錠をはずす」行為に該当することを単に指摘するのみならず、そこで侵害される権利・利益の有無・性質を示し、また当該措置を採る必要性をも考慮した上で、具体的状況の下で相当と認められるか、実質的に検討する必要があろう)。
 なお、住居への立入りのために、宅急便の配達を装う欺罔手段が用いられた例(大阪高判平成6・4・20高刑集47巻1号1頁)もある。
 捜査機関が令状による捜索差押えを実施する場合の手続は、基本的で重要な問題であり、とりわけ、令状の提示時期及び立入りの方法に関する上記最高裁判例について、その判断内容を正確に理解していることが望まれる。

<面接(既修者)>

 本問は、日頃から社会において生起する法現象に目を向けているか、具体的には、報道などで話題となった新しい裁判に主体的な関心を寄せているか、を見る問題である。裁判の結論を覚えるだけでなく、具体的事案、紛争の背景、紛争解決のあり方などにも留意しつつ裁判に接しようとしているか、また、素材とされた裁判の中から法的な問題点を抽出し、分析し、議論をすることができるか、といった観点から、受験者の法律家としての資質・適格性を判定しようとしたものである。


<面接(未修者)>

 本問においては、法科大学院の入学試験(面接試験)における選考基準の当否に関する分析を素材として、受験生が実務法曹となるに相応しい分析力、判断力及び口頭表現力を有するか否かを評価した。具体的には、法科大学院が社会において適正に活躍する優れた法曹を養成するという使命を有することや、法科大学院の入学試験では公平性・透明性が強く求められること等を前提としつつ、公表されていない基準を用いること自体の妥当性及び用いる基準の内容の実質的な妥当性の双方の観点から、問題について検討することを求めた。
 なお、本問の結論としては賛否両論あり得るため、結論自体ではなく、結論を説得的に主張することができるか否かを評価した。特に、自説の論拠を主張することができることのみならず、他の考え方についても正しく理解した上で、適切な批判を展開することができるか否かを、評価した。

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