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2009年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

問題

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法 PDF
出題趣旨 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:小論文試験の問題及び出題趣旨

第3次選考:面接試験
問題 既修者用未修者用 PDF
出題趣旨 既修者用未修者用

出題趣旨

<公法(憲法)>

 本問は、いわゆる「日曜日授業参観事件」と「剣道受講拒否事件」とを素材とした問題である。本問では、各事案から「公教育の宗教的中立性」という問題を的確に抽出し、その上で、事案の違いを踏まえつつ、それについて論じていくことが求められる。


<公法(行政法)>

 比較的簡単な事例を素材にして、行政(作用)法総論・行政救済法の基本的な知識が身に付いているかを問うもの。
 【設問1】においては、法律による行政の原理、とくに、法律の留保の原則に関わる問題であること、また、設問の事案が「行政処分(行政行為)の撤回」に当たること、利益処分の撤回に係る法律の根拠の要否について、どのような見解が判例・学説上とられているか、といった点に触れることが求められている。
 【設問2】においては、本件許可取消処分が行政手続法上の「不利益処分」に当たることを端的に指摘した上で、それをめぐる同法上の手続保障について論じることが求められている。「聴聞」という形での意見陳述の機会を与えること、それに伴って、記録閲覧権が保障されること、また、理由の提示が必要であること、などについて言及することが必要である。
 【設問3】は、基本的に、「行政上の不服申立て」制度について正確な理解ができているかを問うものである。可能性のあるものとして、処分庁であるY(B市の市長)に対する「異議申立て」、およびB市が属する都道府県の知事に対する「審査請求」、両者の相互関係(異議申立て前置)に触れ、さらには、現に聴聞が行われた場合の異議申立ての取扱い(行政手続法第27条第2項)などについて言及することが求められている。


<民事法(民法)>

第1問
 契約責任と不法行為責任との区別及びそれぞれの内容と性質について理解できているかどうかを、具体的な設例によって確認することを目的とした問題である。
 契約関係にあるAからCに対する請求については、瑕疵担保責任又は債務不履行責任の追及が考えられる。目的物が種類物であること、発生した損害が契約目的物自体の損害にとどまらないこと、小売業者が梱包された商品の瑕疵を発見することは一般に困難であること、目的物の性質に関する契約当事者の合意内容などを考慮しつつ、瑕疵担保責任と債務不履行責任のいずれの法律構成によるべきかを明らかにした上で、要件と効果を論ずることが求められる。
 AからBに対する請求及びDからの請求においては、不法行為責任の追及が問題となる。民法上の不法行為責任のほかに、Bに対しては、製造物責任法に基づく責任追及が考えられる。

第2問
 正解は次のとおり。
小問1 3
小問2 2
小問3 5
小問4 3


<民事法(商法)>

第1問
 株主総会決議の効力を争う訴えは、会社関係訴訟の中でも頻繁に活用されている、重要なガバナンス手段である。株主総会決議の効力の争い方には、主張可能な事由および提訴期間などについて違いがある。それらの異同について、3つの争い方相互の関係に配慮しつつ整理させることで、基礎的な知識の理解を問うことを狙った。

第2問
 利益相反取引規制は、株式会社の役員等の行為に関する重要な規制の一つである。もっとも、利益相反取引規制の趣旨からしてそれが適用されない場合もあるし、その適用範囲について会社法の条文自体からは必ずしも明確ではない場合もある。そこで、本問では、様々に事例を変えてみて、それぞれの場合について利益相反取引規制の適用があるのかどうか、そしてそれはどのような理由に基づくのか、について基礎的な理解を確認することを狙った。

第3問
 会社分割がなされる場合は、原則として債権者異議手続が必要となる。ただし、物的分割について分割会社に残る債権者については債権者異議手続は不要となる。このような違いがなぜ発生するのかを説明するためには、会社分割の実質を理解している必要があるので、この基礎的なポイントの理解を確認することを狙ったのが(1)である。
 (2)については、分割比率の公正性の意味合いと、その救済手段(株式買取請求・分割無効・損害賠償請求など)との理解を確認することを狙った。


<民事法(民事訴訟法)>

 本問は、証明責任についての理論的把握と基本的事例へのあてはめを問うものである。小問(1)(2)は、証明責任とその分配について理論的な基礎を問うものである。小問(3)(4)は、前者が権利消滅事実について、後者が権利障害事実について、証明責任の分配を問う問題である。小問(5)は、債務不存在確認訴訟について、証明責任の分配を問うことにより、証明責任の議論を展開する基礎を有しているかどうかを試す問題である。


<刑事法(刑法)>

 本問は、簡単な事案を素材にして、問題となる行為を的確に捉えた上で、@正当防衛に関する基礎的知識の有無(急迫性の意義、防衛の意思の要否・その内容、自招侵害の扱い方、相当性の判断基準など)、A(量的)過剰防衛に関する基礎的知識の有無、B共同正犯の成立要件に関する基礎的知識の有無、C共犯関係の解消(共犯からの離脱)に関する基礎的知識の有無を確認すると同時に、それらの知識を具体的事案に的確に適用することができるかを確認することを目的としたものである。


<刑事法(刑事訴訟法)>

 最高裁昭和36年5月26日第2小法廷判決(刑集15巻5号893頁)の判断内容に関する基本的知識を有することを前提に、実況見分調書(実況見分の現場でなされた供述を含む)の証拠能力に関する理解度(問題の所在を的確に指摘し、事案に即して議論を展開できるか)を確認することを目的として出題した。
 実況見分は、犯行現場等の状態を五官の作用によって認識することを目的として行われる任意処分であり、その結果を記載した書面が、実況見分調書である。この実況見分調書は、実況見分を行った司法警察職員等の捜査機関が、その結果、すなわち捜査機関の認識した事実(例えば、A地点とB地点との距離が8.2メートルであったという事実)を記載した書面であり、捜査機関等が記載=供述する時点で、その観察、記憶、及び表現の正確性の点検が(裁判官や当事者によって)行われず、正確性の担保が十分ではないため、裁判所が、記載内容が真実であることを前提に要証事実を認定しようとする場合、伝聞証拠に該当することとなる(観察者の評価を含まない事実の記載であっても、作成者の供述過程を経ているから、伝聞証拠であることに変わりはない)。
 現行法は、伝聞証拠の証拠能力を否定する(320条)が、その証拠としての有用性を考慮し、一定の要件を満たす場合には、例外的に、証拠能力を付与している(321条以下)。
 この点、実況見分調書の証拠能力について、刑事訴訟法は直接定めを置いていないため、設問においては、まず、いかなる規定に基づいて伝聞例外として証拠能力が認められるか、検討する必要があり、その際、321条3項が、強制処分である検証の結果を記載した書面(検証調書)について、検証を行い、書面を作成した者=供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、証拠とすることができると規定することが手掛かりとなろう。
 同条項が、捜査機関の検証調書に証拠能力を認める理由については、仮に書面の作成者(供述者)にその観察した対象の状況を公判廷で供述させても、事柄の性質上、特に微細な点については正確性を欠くことが多くなるのに対して、検証直後に作成された書面であれば、正確かつ詳細であることが期待できるし、記載も、物の形状、位置関係など、いわばそれ自体としては中立的な対象に関することであって、供述者の主観的意図によって内容がゆがめられることも少ないと考えられるためだ、と説明される。
 実況見分は任意処分であり、強制処分である検証とは異なるが、五官の作用によって対象の状態を認識するという処分の性格は共通しており、その結果を記載した書面の性格に違いがあるわけではないから、上記の趣旨が実況見分調書についても妥当しよう(ただし、学説上、異論もある)。最高裁判所の判例も、捜査機関が任意処分として行う実況見分の結果を記載した実況見分調書も刑訴法321条3項所定の書面に包含される(最高裁昭和35年9月8日第1小法廷判決・刑集14巻11号1437頁)とし、上記昭和36年判決でも、その判断が確認されている。
 このように、実況見分調書が、検証調書に準じて証拠能力を付与されることがあるとしても、調書に記載された、実況見分の現場でなされた立会人の指示説明の取扱いについては、その記載から証明しようとする事実との関係に留意しながら、さらに検討する必要がある。
 一般に、立会人の指示説明の取扱いについては、「現場指示」と「現場供述」とに区別され、充足すべき要件が異なると説明されるが、証拠能力の検討に際しては、そのような振り分けが行われる実質的な理由を示しながら、結論を導くことが重要である。
 具体的には、そこでは、立会人の指示説明が、実況見分の動機ないし契機(立会人がその場所で犯行が行われたと指示したので、指示された場所の距離を計測したこと)を明らかにする限度で用いられる場合には、指示説明がなされたこと自体が実況見分において認識された事実(実況見分の結果)にあたり、その記載には321条3項によって証拠能力が認められることとなるのに対して、立会人の供述内容である事実の存否の証明に用いられる(自分の目撃した犯行状況をも内容とする立会人の指示説明を用いて、裁判所が、立会人の指示説明するように犯行が行われたことまで認定する)ならば、その供述については、伝聞法則との関係で、書面を作成した捜査機関に加え、犯行状況に関する立会人の観察、記憶、及び表現の正確性が問題となり、また当該書面は、捜査機関による供述録取書としての性格を持つこととなるから、別途、その指示説明につき、伝聞例外の要件を満たすかが判定されるべきこととなろう。
 実況見分調書の証拠能力は、伝聞法則の理解に関連する基本的で重要な問題であり、とりわけ、立会人の指示説明の取扱いに関する上記判例について、その判断内容を正確に理解していることが望まれる。

<面接試験・既修者用>

 本問は、法律相談の場面を素材として、将来の法曹に必要とされる法的分析能力や問題解決能力を見る問題である。事案は比較的単純であるが、土地の所有者が誰であるかなど重要な事実関係をあえて曖昧にしている。そのため、背後に存在する事実関係を推測し、もしくは場合分けを行った上で、議論の射程を意識しつつ、的確な法的分析に基づき、採りうる法的手段の具体的内容を解答する能力が要求される。
 さらに、本問では訴訟ないし法的処理によって実現しうる紛争解決の意義と限界を明確に認識しつつ、当該事案で相談者側が何を望んでいるかを汲み取り、それに応えうる現実的な(法律の適用による手法ではない)問題解決を考える能力も要求される。


<面接試験・未修者用>

 本問では、具体的な品質の不適切性の意味内容について適宜具体化しつつ、行政規制の強化やその運用の厳格化が求められがちな食品の安全性を題材に、社会における問題の様々な解決手法について比較・検討することを求めた。
 利便性や安全・安心といった諸価値についての偏った先入観を排しつつ、国民生活における当該食品の重要性、流通・販売ルートの特質、購入者の層、すでに発生し又は発生が予測される被害の深刻さ等を勘案しつつ柔軟にメリット・デメリットを比較し、状況により最適な対応が異なりうることを論理立てて説明できるかどうかを問うたものである。

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