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2007年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

問題

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法行政法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:小論文試験の問題及び出題趣旨

第3次選考:面接試験
問題 既修者用未修者用
出題趣旨 既修者用未修者用

出題趣旨

<公法(憲法)>

 新司法試験における憲法の問題は、具体的事例において憲法上の論点を的確に析出することができる能力を重視している、と思われる。本問は、世上よく提案がなされる知事の多選禁止規定導入論を素材にして作成されたものである。解答に際しては、本問の事例に即して、「地方自治の本旨」との関連で、市町村長と市町村議会議員の双方について、多選禁止規定と「職業選択の自由」「公務員選定罷免権」「法の下の平等」等の憲法の保障する権利等との関係について論じることが求められる。


<公法(行政法)>

 行政法の基本問題である行政裁量について、地方公務員法29条所定の分限処分に関する最高裁判決の説示をてがかりに、基礎的知識の習得の度合いを確認するのがねらいである。具体的には、そもそも行政裁量とは何か(定義づけ)、要件裁量と効果裁量の違い、行政裁量が認められる実質的理由のうち、主要なものといえる「専門・技術的裁量」について、分限処分の趣旨等に即して理解ができているか、行政裁量に対する司法審査が、基本的に「逸脱・濫用審査」にとどまることを理解しているかを問うている。


<民事法(民法)>

第1問
 民法の基礎的・横断的理解を問う問題である。
 売買代金債権確保の手段としては、保証人と保証契約を締結したり、抵当権の設定を受けることも考えられるが、(1)では、同時履行の抗弁(民法533条)、留置権(同295条)、(2)では、契約の解除(による目的物の回復)(同541条)、動産売買先取特権(同321条)が重要であり、所有権留保という方法もある(なお、非占有動産担保の実行方法について、近時の改正による民事執行法190条を参照)。
 もっとも、同時履行の抗弁、契約の解除、動産売買先取特権、所有権留保は、目的物が買主から第三者に転売されると、即時取得成立の可能性がある等のため(民法545条1項ただし書、同333条も参照)、その代金債権確保手段としての実効性が減殺される。(3)では、動産売買先取特権者による、転売代金債権への物上代位(民法304条)が重要である。
 単に諸方法を列挙するだけでなく、それらがどのように代金債権確保に役立つのか、諸方法と売買契約当事者間における所有権移転の有無ないし時期との関連もふまえて解答するとよい。

第2問
 正解は次のとおり。
 小問1  2または5(いずれを選択してもよい)
 小問2  5
 小問3  2
 小問4  5

 注)第2問の小問1は、誤っているものの組み合わせを1つ選ぶ問題ですが、アからオまでの記述のうち、正しいものはアおよびウ、誤っているものはイおよびエと解されます。オについては、正しいと解される可能性も誤っていると解される可能性もあることから、解答としては、2(イエの組み合わせ)に加えて5(エオの組み合わせ)も正解とすることといたしました。


<民事法(商法)>

 会社法を学習する上でおさえておかなければならない基本的な論点について、簡単な事例問題によって理解力・思考力を問うたものである。(1)真の論点は、株主提案権行使の持株要件を充たしているかどうかといった形式的なことではなく、(取締役会設置会社における)株主総会と取締役会の権限配分との関係をどう考えるかということである。(2)@定款によって議決権行使の代理人資格を制限することができるか(判例は肯定する)、Aできるとして、法人株主がその職員や従業員に議決権を行使させることは可能か(判例は肯定する)、B@とAをどのように整合的に説明するかが問われる。(3)取締役の報酬規制の趣旨(お手盛りの防止)と監査役の報酬規制の趣旨(監査役の地位の独立性の確保)の違いを踏まえ、取締役の報酬と監査役の報酬を一括して決議することの適法性をどう考えるかが問われる。


<民事法(民事訴訟法)>

 本問題は、訴訟物の把握(第1問)、第1回口頭弁論に被告が不出頭の場合の処理(第2問)、一部認容の可否(第3問)を問うものである。とくに第2問では、原告側の訴状及び準備書面の陳述がされること、答弁書・準備書面を提出していない被告について擬制自白が成立すること、原告主張の請求原因事実すべてに擬制自白が成立すると弁論を終結し、請求認容判決(一部認容判決ではない。)に至ること、また第3問では、一部弁済の抗弁によって原告の申し立てた額と異なる金額の請求認容判決をなしうることの根拠、所有権移転登記手続と引換えに認容判決することの根拠などに留意すべきである。


<刑事法(刑法)>

 本問は、簡単な事案を素材にして、@共同正犯に関する基礎的知識の有無(共同正犯の成立要件、承継的共同正犯の成立要件・成立範囲など)、A刑法207条の同時傷害の特例に関する基礎的知識の有無、B不法領得の意思に関する基礎的知識の有無を確認すると同時に、それらの知識を具体的事案に的確に適用することができるかを確認することを目的としたものである。@・Aについての参考裁判例として、大阪高判昭和62年7月10日高刑集40巻3号720頁、大阪地判平成9年8月20日判タ995号286頁など。


<刑事法(刑事訴訟法)>

 最高裁平成12年6月13日第3小法廷判決(民集54巻5号1635頁)の判断内容に関する基本的知識を有することを前提に、それと類似した事案を用いて、身体拘束中の被疑者と弁護人の接見交通に関する理解度(問題の所在を的確に指摘し、事案に即して議論を展開できるか)を確認することを目的として出題した。
 身体を拘束された被疑者と弁護人との接見交通権は、憲法34条前段の「弁護人を依頼する権利」の保障に由来する重要な権利であるが、判例(最高裁平成11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁)は、それが一定の場合に制限に服することを認めている。その立場を前提とした場合、本件では、弁護人となろうとする者Aに対して、捜査主任官であるP警備課長が述べる事情が、接見交通の制限を正当化するものといえるか、事実を摘示しながら判断することが必要である。
 その際、刑事訴訟法39条3項の「捜査のため必要があるとき」の意義を明らかにした上で、取調べの予定があること、あるいは、現に取調べ中であることが、これに当たるかを論ずることとなるが、接見指定制度の趣旨が、被疑者の身体の利用をめぐる、捜査の必要と接見交通権との時間的調整にあるとした場合、接見を認めることが捜査に顕著な支障を及ぼすかという点に関して、間近い時に取調べの確実な予定があるという事情が、取調べが現に行われているという事情と本質的に異なるか、については慎重な検討を要するであろう(なお、判例が、取調べが現に行われていれば、直ちに捜査に顕著な支障が生ずるとしているわけではないことにも注意が必要である)。
 また、前記平成12年判決は、接見が逮捕後初めて行われるものであるという事情を、接見指定の内容が、「被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなもの」か否かを検討する際に考慮している。初回の接見は、憲法34条の保障の出発点をなす重要な意義を有することから、捜査機関としては、接見指定の要件が具備されていても、接見の時間を指定することによって捜査に顕著な支障を生ずるのを避けることが可能かどうかを検討し、それが可能なときは、例えば、取調べを一時中断したり、取調べの開始を遅らせたりして、即時または近接した時点での接見を認めることが要請される、とすれば、本件接見指定についても、そのような見地から、指定内容の当否を判断すべきこととなろう。
 二つの前記最高裁判決のように、基本的な判例については、その事案の概要と判断内容を正確に理解していることが望まれる。

<面接試験・既修者用>

 設問のCは、本来、AからBへの所有権移転登記がなされたことをふまえて、Bに対して、BからCへの所有権移転登記を請求する。しかし、BがAからBへの所有権移転登記に協力しなくても、Cは、Bに代位してAからBへの所有権移転登記をした上で、Bに対してBからCへの所有権移転登記を請求することができる(債権者代位権の転用)。さらに、CからAに対して、中間省略登記の請求ができるかどうかという問題もある。
 出題の趣旨は、これらの問題の検討を通じて、既修者にふさわしい基本的事項の理解と応用力が備わっているかを問うところにある。


<面接試験・未修者用>

 設問のような状況において、たとえば社長の一存で処分の有無や程度を決めるのではなく、客観的なルールに基づいて判断をすべきではないか、客観的ルールが存在していても(それが漠然とした内容のものである場合にはとくに)これを適用した先例との異同を丁寧に吟味してから先例を踏襲すべきか否かを考えるべきではないか、処分の対象となった行為と処分の結果とは釣り合っているか、などの問題を意識して応答が行われることを期待した出題である。
 なお、法律専門知識の有無や多寡は評価の対象外である。

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