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2006年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

問題

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 公法民法刑法商法民事訴訟法刑事訴訟法
出題趣旨 公法民法刑法商法民事訴訟法刑事訴訟法

第2次選考:小論文試験の問題及び出題趣旨

第3次選考:面接試験
問題 既修者用未修者用
出題趣旨 既修者用未修者用

出題趣旨

<公法(憲法)>

 憲法上の権利は、一般に、個人に対して、公権力に対する関係で保障されるものである。本問は、その個人が自ら公権力の担当者である場面を解答者に設定させることによって、人権論の輪郭を、立憲主義の基本原理に遡って自ら再構築することができるかどうか、及び、その作業を、抽象論としてではなく具体的な設例を構想しながら遂行することができるかどうか等を問おうをしたものである。


<公法(行政法)>

 行政訴訟の基本知識を問う。具体的には、取消訴訟の原告適格(行政事件訴訟法9条)という、訴訟要件論の基本中の基本事項について、理解度を確認するもの。
 小問1は、2004年行政事件訴訟法改正の目玉のひとつである、同法9条2項の追加について、その立法趣旨を端的にたずねるもの。同法改正の基調に「国民の権利利益のより実効的な救済」が置かれていることを指摘し、その一環として、「国民の権利利益の救済範囲の拡大」を図るため、原告適格の有無を判断する際の「必要的考慮事項」を定めたのが同法9条2項であることを述べればよい。
 小問2はその応用編であり、@伊達火力発電所訴訟最高裁判決、A近鉄特急料金認可訴訟最高裁判決という、代表的な原告適格否定例を素材に、原告適格肯定の可能性を論じてもらおうとしたもの。@においては、関連法令として環境影響評価法、被侵害利益として海域の汚染(環境被害)による漁獲減少をあげて論ずることが期待されている。Aについては、被侵害利益としては重大とはいえないものの、「通勤定期券購入者」という一般利用者とは一応の「差別化」が可能な一定範囲の者に原告適格を認める余地がないか(このような利用者の利益も、公益に吸収解消されてしまうものか)という点に言及することが期待されている(結論は肯定・否定いずれでもよい)。
 なお、小問2において、原告適格の一般論=「法律上の利益」をめぐる「法律上保護された利益説」と「法律上保護に値する利益説」の「対立」およびその具体的要件論に触れても構わないが、必須とはしていない。


<民法>

 (1)共同相続と登記の問題、(2)共有物を共有者の一人が占有する場合の他の共有者による明渡請求の可否、について、検討が行われている必要がある。(1)に関しては、Cが、共同相続によって取得した甲土地の持分を登記なしにDに対抗することができるか否かが問題である。Cは登記なしに自己の相続分をDに対抗することができるとするのが判例とされるが、学説は民法177条の適用あるいは同法94条2項類推適用によるD保護の可能性を示唆する。(2)に関しては、CからDに対する明渡請求を否定する判例法理を踏まえた検討が望まれる。


<刑法>

 本問は、簡単な事案を素材にして、窃盗罪の実行の着手時期に関する基本的知識の有無、暴行の程度、既遂要件などの事後強盗(致傷)罪の成立要件に関する基本的知識の有無、(共謀)共同正犯の成立要件とその範囲、(共謀)共同正犯と従犯との区別など共犯に関する基礎的知識の有無、罪数に関する基礎的知識の有無を確認すると同時に、事案を適切に把握し、それらの知識を具体的事案に適用する能力を有しているかを確認しようとしたものである。
 採点に当たっては、事案において問題となる論点が網羅的に論じられていることではなく、本事案を処理するに当たって、もっとも問題となると考えられる点をどこに見出しているか、その部分について、正確かつ適切に論証できているかを重視した。


<商法>

 会社法を学習する上で必ずおさえておかなければならない論点について、簡単な事例問題によって基本的な理解を問うたものである(本問の解答に関するかぎり、改正前商法によるか新会社法によるかによって実質的な違いはない)。事前の救済として新株発行差止請求を、事後の救済として新株発行無効の訴えを挙げるべきことはいうまでもないが、どのような事由が差止事由(法令違反、著しく不公正な方法による発行)または無効原因(明文の規定はない)に当たるか(または当たらないか)を事例に即して論じていなければならない。


<民事訴訟法>

 訴訟物とは何か、さらに、判決理由中の判断に既判力が及ぶ事例にはどのようなものがあるかを問うことにより、既判力の客観的範囲に関する理解を試す問題である。


<刑事訴訟法>

 最高裁昭和30年12月9日第2小法廷判決(刑集9巻13号2699頁)の事案を用いて、その判断内容に関する基本的知識を有することを前提に、伝聞法則に関する理解度(問題の所在を的確に指摘し、事案に即して議論を展開することができるか)を確認することを目的として出題した。
 伝聞証拠が原則として証拠能力を否定される趣旨に照らすと、ある供述が伝聞法則の適用を受けるかは、その供述によって立証しようとする事実(要証事実)を踏まえて判断することが必要である。本件では、Aの発言から、XがAに対して強姦に及ぶ動機を持っていたことを推認するために、単に、AがXを嫌悪していたという事実(心の状態)を前提とすれば足りるか、Aの嫌悪の情の原因となっている、XのAに対する「いやらしい」言動の存在を前提としなければならないか、が問題となろう。
 また、Aの発言を内容とするWの供述が伝聞法則の適用を受けるとしても、刑事訴訟法324条2項、321条1項3号の要件を満たす場合には、伝聞法則の例外として証拠能力が認められる。本件では、Aが死亡している(供述不能である)から、さらに、証拠としての不可欠性、特信情況の存否について、その判断基準を示した上で、問題文中の具体的事実を適宜援用しながら検討を行うことが必要である。なお、その際、Wが本件の被疑者として捜査機関から取調べを受けたことがあるという事情がWの供述の信用性に影響し得ることと、それが、AがWに発言した際の特信情況の判断において持つ意味とは明確に区別して論じられるべきであろう。
 前記最高裁判決のように、多くの教科書で言及されている、基本的な判例については、その事案の概要と判断内容を正確に理解していることが望まれる。

<面接試験・既修者用>

 本問は、建物の区分所有等に関する法律に関する細かな知識を問うものではない。
 区分所有者の財産権をどのような条件で制約することができるのかという視点等からABC各見解を整理し、それぞれの根拠・メリット・デメリットなどを理解した上で、最も適切な考え方がどれであるかを説得的に提示することができるかどうかを問うものである。


<面接試験・未修者用>

 本問は、いわゆる六法には直接かかわらない裁判例に現れた身近な事案に一定の加工を施した設例を用いることによって、解答者に法及び法学の知識があることを必要としないかたちで、社会問題を法問題として把握する作業を行うために必要な前提をなす能力――――例えば、法論理に整序される以前のより一般的な次元での基礎的な論理構成力―――があるかどうか等を問おうとしたものである。

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