TOP > 2005年度東北大学法科大学院入学試験:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)問題及び出題趣旨について

2005年度東北大学法科大学院入学試験:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)問題及び出題趣旨について

問題 公法民法刑法商法民事訴訟法刑事訴訟法
出題趣旨 公法民法刑法商法民事訴訟法刑事訴訟法

出題趣旨

<公法(憲法)>

 本問は、個人の私生活上の情報の保護という観点を設定することにより、日本国憲法の諸規定を横断的に捉える能力が修得されているかどうかを問おうとしたものである。加えて、具体的な諸事例のなかに憲法上の問題点を適切に位置づけることができるかどうか、考慮すべき諸論点の間で重要度の優先順位を的確に割り振ることができるかどうか、憲法の基礎原理からの推論をおこなうことができるかどうか、をも見ようとした。受験者に本問題に関する基本的な知識が備わっていること、危なげない論述ができること、等も解答にあたっては当然に要求される。



<公法(行政法)>

 行政訴訟の基本知識を問う。具体的には、取消訴訟ないし抗告訴訟の対象となる「処分」について、基本的理解ができているかを確認した上で、通常、学部講義で言及される事例(@・A)、および、処分性との関連では必ずしも触れられないが、「行政行為の撤回」との関連で基本判例とされている事件(菊田医師事件)を知っていれば解答できる事例(B)に即して、その理解度を見る。なお、Aについては、判例に依拠して否定説をとっても良いし、これを批判する見地から肯定説をとっても良い。いずれも、結論より、理由の方が重要(なお、@〜Bに関する判例は、いずれも『行政判例百選』に掲載されている)。



<民法>

 Bに対する一般債権者であるCが,DおよびEに優先するためには,BではなくAに対する債権(転用物訴権)が認められるべきこと、転用物訴権を否定せざるをえないとする場合には他の方策(修理契約の締結についてBをAの代理人とみることができないか等)の可能性について、具体的に検討する必要がある。(小問(1))。
 Eが,CおよびDに優先するためには,転用物訴権その他小問(1)の諸方策を否定し,かつ,自らが先取特権(民法306条・308条)を有することを論ずる必要がある(小問(2))。
 小問(3)は,Dが占有改定(民法183条)の方法により譲渡担保権を即時取得(民法192条)することができるかどうかを問うものである。



<刑法>

 本問は、簡単な事案を素材にして、強盗罪・恐喝罪に関する基礎的知識(それぞれの成立要件など)の有無、共犯に関する基礎的知識の有無(共同正犯又は従犯の要件、両者の区別など)及びその知識の具体的事案への適用能力を確認しようとしたものである。
 採点に当たっては、事案において問題となる論点が網羅的に論じられていることではなく、本事案を処理するに当たって、もっとも問題となると考えられる点をどこに見出しているか、その部分について、正確かつ適切に論証できているかを重視して採点を行った。

(誤植について)
 問題文の下から4行目の「Xの行為を静止することもなく」という部分は、「Xの行為を制止することもなく」の誤りであった。この誤りは、採点中に発見されたが、当該誤植は解答に大きな影響を与えるものではないと考えられること、実際、当該誤植の影響を受けたと見られる答案がなかったこと、試験中及び試験後(現在に至るまで)に受験生から誤植に関する指摘がなかったことなどの諸事情を踏まえ、答案の採点にあたっては、格別の考慮を払うことはしないこととした。



<商法>

 会社法を学ぶ上でおさえておかなければならない重要事項の基本的な理解を問うている。平成13年改正により買受・保有について原則禁止から原則許容へと大きく転換した自己株式関連規制はかなり複雑であるが、条文にもきちんと眼を通し、ありうる弊害ないし規制趣旨との関係でその骨格を整理し理解しておくことが必要である。たとえば、自己株式の処分は、既存の株主に及ぼす影響ということでは、新株の発行と類似しており、そこで、新株の発行に準じた規制の下に置かれているのである。取締役会の決議事項とされているということを挙げるだけではきわめて不十分である。



<民事訴訟法>

 民事訴訟における事実認定に関する基本的な理解を問う問題である。(1)は、法定証拠主義を鑑にしながら自由心証主義とはいかなるものであるかを問う。(2)は、基本的には、直接証明と間接証明の区別及び間接証明の構造の理解を問う。自由心証主義のもとでは、間接証拠から間接事実を認定し、その間接事実から経験則に基づく事実上の推定により主要事実を証明することが許されている。このような事実認定の基本的理解に基づいて、しっかりとした説明がされることを要する問題である。



<刑事訴訟法>

 最高裁昭和41年7月1日第2小法廷判決(刑集20巻6号537頁)の事案を用いて、その判断内容に関する基本的知識を有することを前提に、自白の証拠能力に関する理解度を確認することを目的として出題した。
 学説上、不任意自白が証拠から排除される根拠については、@不任意自白には類型的に虚偽のおそれがあり、信用性に乏しいから排除されるとする虚偽排除説、A不任意自白は、供述の自由の制約を伴うため、黙秘権の保障を担保するために排除されるとする人権擁護説、B不任意自白は、自白獲得手段が違法であるから排除されるとする違法排除説、という3つの考え方に整理されている。
 本問の検討に際しては、これらの考え方の趣旨・相互関係について正確に理解したうえで、問題の所在を的確に指摘し、事案に即して議論を展開することが肝要である。
 例えば、虚偽排除説からは、勾留されている被疑者Xの心理状態を前提とした場合に、弁護人Aの言葉が、その意思決定に影響を及ぼし、虚偽の供述を誘発するおそれを伴うものといえるか(検察官Pが直接被疑者に対して利益を提示・示唆していないこと、提示・示唆された利益が起訴猶予とすることであったことなどの事実は、はたして、また、いかなる意味を持つか)、人権擁護説からは、弁護人A(あるいは検察官P)の言葉が、はたして、また、いかなる意味で、被疑者Xの供述の自由を制約するものといえるか、違法排除説からは、本件事案のいかなる点に手続法上の違法があるか(利益を提示・示唆することは、はたして、また、いかなる意味で違法か、本件事案における検察官Pの行為は違法か、どの程度の違法であれば自白を排除することが必要か、自白排除を要する違法は、最高裁昭和53年9月7日第1小法廷判決において、証拠物の排除の要件とされる「令状主義の精神を没却するような重大な違法」に匹敵する程度である必要があるか)、などの点が問題となり得る。
 なお、前出の最高裁判決のように、多くの教科書で言及されている、基本的な判例については、その事案の概要と判断内容を正確に理解していることが望まれる。

前のページへ戻る