従来の法学教育と法科大学院教育との違いとは何でしょうか。従来、実定法の法学教育では、概念を中核とした法解釈に比重が置かれてきました。もちろん、判例研究など、事実から出発する研究に裏打ちされていたのですが、学生の立場からみれば、概念操作のみが目立っていたのかも知れません。それに対する反作用として現れたのが、正解のみを追い求める学生独自のマニュアルでありました。
しかし、法科大学院の教育は違います。第1年次では、従来と同様に法律基本科目をマスターしなければなりませんが、第2年次では、一般社会にある生の事実を想定し、複数の法的解決の可能性を見出しつつ、妥当な解決方法に至る道筋を学ぶことになります。従来の法学教育が軽視しがちであったということができる部分に比重を置いた教育です。それは、真に法曹となる基本的素養でもあると言えます。
さて、みなさんは、新司法試験のことが気になっていることだと思います。ある意味で、やむをえないことです。しかし、正解を並べ立てるだけの小手先の答案練習では、法曹になるべき素養を身につけることはできません。事実から出発し、法的な概念を適切に用いることにより、事実関係に妥当な法を適用するという法科大学院の教育こそ、法解釈と法適用とを適正に結びつけたものであって、遠回りに見えても正道であり、最短距離だと考えます。
みなさんは、3年あるいは2年の間、法を学ぶことになります。「学ぶ」の語源は「真似ぶ」であるとする有力説があります。法を学ぶことは、人に真似ぶことでもあります。東北大学法科大学院のスタッフは非常に充実しています。実務家教員は実務の、研究者教員は理論の専門家です。みなさんは、様々な問題点にぶつかり、悩み、解決に至った経験を持ち合わせたこれらの教員に真似んでいただきたい。法を学び、人に真似ぶ法科大学院生として、善き法曹を目指してください。
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