TOP > 教員からのメッセージ

教員からのメッセージ

法に学び、人に真似ぶ

*
坂田 宏 教授
実務民事法等担当
 従来の法学教育と法科大学院教育との違いとは何でしょうか。従来、実定法の法学教育では、概念を中核とした法解釈に比重が置かれてきました。もちろん、判例研究など、事実から出発する研究に裏打ちされていたのですが、学生の立場からみれば、概念操作のみが目立っていたのかも知れません。それに対する反作用として現れたのが、正解のみを追い求める学生独自のマニュアルでありました。
 しかし、法科大学院の教育は違います。第1年次では、従来と同様に法律基本科目をマスターしなければなりませんが、第2年次では、一般社会にある生の事実を想定し、複数の法的解決の可能性を見出しつつ、妥当な解決方法に至る道筋を学ぶことになります。従来の法学教育が軽視しがちであったということができる部分に比重を置いた教育です。それは、真に法曹となる基本的素養でもあると言えます。
 さて、みなさんは、新司法試験のことが気になっていることだと思います。ある意味で、やむをえないことです。しかし、正解を並べ立てるだけの小手先の答案練習では、法曹になるべき素養を身につけることはできません。事実から出発し、法的な概念を適切に用いることにより、事実関係に妥当な法を適用するという法科大学院の教育こそ、法解釈と法適用とを適正に結びつけたものであって、遠回りに見えても正道であり、最短距離だと考えます。
 みなさんは、3年あるいは2年の間、法を学ぶことになります。「学ぶ」の語源は「真似ぶ」であるとする有力説があります。法を学ぶことは、人に真似ぶことでもあります。東北大学法科大学院のスタッフは非常に充実しています。実務家教員は実務の、研究者教員は理論の専門家です。みなさんは、様々な問題点にぶつかり、悩み、解決に至った経験を持ち合わせたこれらの教員に真似んでいただきたい。法を学び、人に真似ぶ法科大学院生として、善き法曹を目指してください。

信頼できる法曹を目指すみなさんへ

*
宮田 誠司 教授
実務刑事法等担当
 検察庁から実務家教員として東北大学法科大学院に派遣され、早いもので1年数か月が経ちました。前任地の司法研修所では司法修習生への検察実務教育に携わりましたが、現在は、法科大学院の目標である「理論と実務の架橋」を志向し、研究者教員や他の実務家教員の方々と協働しつつ、法科大学院生への刑事実務教育に携わっています。
 法律実務家になるためにはまず法律知識の修得が必要ですが、これだけではもちろん足りません。法律実務家の職務は事案を法的に解決することですから、修得した法律知識を自在に使いこなす能力も求められます。では、そうした能力を身に付ければ十分なのでしょうか。答えは否です。
 法律実務家が取り扱う事案は架空の事件ではなく、血の通った人間がかかわる生の事件です。そこでは種々雑多な諸事情が絡み合い、悲哀や憤り、恋愛感情や金銭欲など、様々な感情や思惑が背景にあることが多々ありますし、それらが表面に噴出していることも珍しくありません。刑事事件についていえば、事件には加害者や被害者はもとより、その家族、友人知己、近隣住民など、多くの人々がかかわるものです。こうした事案を目の当たりにし、単に法的に成り立ち得る結論を考えるだけではなく、事件にかかわる人々の心情や境遇にも思いをはせ、それらを踏まえた上で望ましい結末は何か、それは法的にみて支障があるか、その支障を除去するにはどうすればよいか、こうしたことに思案をめぐらせ、事案の妥当な解決を図ることも、法律実務家の重要な職務です。
 私は現在、研究者教員と協働しての「実務刑事法」、他の実務家教員と協働しての「刑事裁判演習」などの科目を担当していますが、いずれにおいても多く具体的事案を題材にしています。私はこれらの科目を通じて、事案の妥当な解決が法律実務家の重要な職務であること、これは非常に悩ましい作業であり、だからこそやりがいもあることを伝えたいと考えています。
 法曹への道は決して平坦ではなく、法科大学院における授業の内容を消化すれば足りるというものではありません。基幹は各自の不断の努力、自己研鑽であり、私ども教員はそのサポートをするにすぎないのです。しかし、私ども教員はみな、求められる限りこれに全力で応える用意があります。法曹を真剣に目指し、困難を承知の上で果敢に挑戦する、熱意あふれる方々をお待ちしています。

大学院としてのロースクール ――高い志と豊かな人間性を備えた法曹・研究者を目指して

*
辻村みよ子 教授
憲法等担当
 専門職大学院としての法科大学院(ロースクール)は、何を目指しているのでしょうか。言うまでもなく、司法研修所や司法試験予備校とは違います。実務研修や受験準備を主眼とするのではなく、「理論と実務の架橋」を目標に、高度な知識と豊かな教養を備えた「優れた法曹」を養成するための大学院です。
 「専門職」大学院である以上、法学理論においても実務においても、高い見識・能力を身につけたプロフェッショナル(専門家)を養成することが目標です。とくに法律の専門家であるためには、社会問題・人権問題に敏感な、鋭い問題意識をもつとともに、人間関係の複雑さや苦悩に対応できる人間味あふれた「プロ」であることが求められます。東北大学法科大学院では、高度な専門知識と同時に豊かな人間性と人権感覚を備えた「一流の」プロの養成を目指しているといえるでしょう。
 また、専門職「大学院」である以上は、法学部卒業生としての「法学士」とは異なり、「法務博士」の学位にふさわしい人材を育成しなければなりません。学識の高さはもちろん、深い洞察力と鋭い分析力、広い視野と国際性を備え、時には社会・政治・学説等に対する批判的検討を通して、法学理論を鍛え開拓するチャレンジングな精神も必要です。東北大学法科大学院では、各分野の第一線のスタッフとともに、時代のニーズに即した新しい学問にチャレンジするため、多くの「展開・先端科目」を開講しています。法科大学院を修了したのちに、研究大学院の博士後期課程に進学して研究者や法学博士を目指す道(法科大学院修了者特別選抜、新司法試験合格者特別選抜等)も用意されているのです。
 私自身は、憲法学の研究者として、L1(第1年次)基礎科目の「憲法」や展開・先端科目の「比較憲法発展」を担当するとともに、21世紀COEプログラム「男女共同参画社会の法と政策―ジェンダー法・政策研究センター」とグローバルCOEプログラム「グローバル時代の男女共同参画と多文化共生」拠点の成果を活かした展開・先端科目「ジェンダーと法演習」も開講しています。毎年多くの受講生とともに、日本社会に存在するジェンダー・バイアス(性差に由来する偏見等)や諸外国の取り組みなどについて、楽しく議論しながら学んでいます。
 目線を上げて志を高くもち、豊かな人間性と社会性・国際性を備えた優れた法曹や研究者を目指して、皆さんとともに考え、一緒に議論できることを、心から楽しみにしています。

良い法曹を目指し、頭と腕と心を磨こう!

*
官澤 里美 教授
法曹倫理等担当
 この原稿を読んでいる君は、法曹を目指しているんだよね?
 法曹は、勉強してきたことのすべてを駆使し、トラブルに巻き込まれて困っている人たちを助け、感謝されて収入もついて来る、こんなやりがいのある仕事はないよ!
 ところで、私は、弁護士で法曹倫理の講義などを担当しているんだけど、ごくたまに法科大学院ではなぜ法曹倫理や新司法試験の科目以外の科目も勉強しなければならないんですか、との質問を受けることがあるんだ。君もそんな疑問を持っているかな?
 でも、世の中の実際のトラブルは新司法試験の科目の知識だけでは解決できないことが多く、解決するためには幅広い分野の知識が必要となることが多いんだ。また、知識があっても、それを使いこなす技術がなければトラブルの解決はできないよね。そして、解決にあたる際の精神が間違っていると、トラブルを解決すべき法曹自体がトラブルに巻き込まれたり、ひどいときにはトラブルを起こしてしまうことさえあるんだよ。
 もちろん、新司法試験には合格しなければならないけれど、それだけでは良い法曹にはなれない、いや普通の法曹にもなれないんだ。
 だから、法科大学院では、良い法曹になってよい仕事ができるように、いろいろな分野の科目を勉強して頭を磨き、ローヤリングや実務系の科目で技術を勉強して腕を磨き、法曹倫理では精神を勉強して心を磨くんだよ。
 東北大学の法科大学院では、君たちに良い法曹になってもらおうと、研究者・実務家が協力して幅広い科目を取り揃え、準備万端てぐすねひいて待っているんだ。弁護士になった私も時間があれば受けたいほどだよ。
 さあ、良い法曹を目指し、一緒に頭と腕と心を磨こう!
前のページへ戻る